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マルクス再生?

新聞の整理をしていたら、マルクス経済学者・的場昭弘の記事に目が留まった。2月16日付朝日新聞朝刊〈資本主義はどこへ〉。的場は今回の経済危機を、「みんなが怖がって口に出さないけど、恐慌です」と言い切っている。「資本主義にとって恐慌は本来、過剰生産を解消する内在的メカニズム。そのつど企業の整理や非生産的部門の排除によって資本主義は洗練されてきた。しかしながら、市場の独占化により、そのメカニズムが働きにくくなり、過剰生産を生む内部矛盾は解消されないまま、恐慌の長期化がもたらされる」と語っている。

サブプライムローンの破綻に端を発する世界同時不況を「金融不況」とだけで捉えていたら、未曾有の経済危機の出口は見えて来ないだろう。計画経済による社会主義(経済)への移行が解決策と考えるのも単純過ぎる。しかし、「新自由主義」なる資本主義の市場原理にそのまま従っていたら、事態がますます深刻化するのは、経済の素人でもわかる。

小林多喜二『蟹工船』がここに来て若者を中心に多くの読者を獲得し、マルクスに関する本が注目を浴び、識者によるマルクスへの言及が増えているらしい。

格差、貧困、派遣切り、自己責任等の問題があらゆる場面で論じられ、閉塞感の強まる現代を象徴する現象なのだろうか。「疎外」「搾取」などのタームを軸に資本主義経済の問題点を見極め、新たな可能性を探ってゆく。人間性の回復を目指す。このような観点からマルクスに関心が持たれたとしても不思議ではない。

内田樹はブログで次のように述べていた。(「甦るマルクス」)

マルクスのいちばんよいところは、「話がでかい」ところである。貨幣とは何か、市場とは何か、交換とは何か、欲望とは何か、言語とは何か・・・そういう「ラディカルな話」をどんと振って、私たちに「ここより他の場所」「今とは違う時間」「私たちのものとは違う社会」について考察させる。マルクスのこの「風呂敷のでかさ」に私は満腔の賞賛を惜しまない。(略)マルクスは私たちの思考に「キックを入れる」。多くの読者たちはおそらくそのような効果を期待してこれまでマルクスを読んできたはずである。私はそれでよいと思う。マルクスを読んで「マルクスは何が言いたいのか?」というふうに訓詁学的な問いを立てるのは、あまり効率のよい頭の使い方ではない。(略)マルクスを読んでいるうちに、私たちはいろいろな話を思い出す。それを読んだことがきっかけになって、私たちが「生まれてはじめて思い出した話」を思い出すような書物は繰り返し読まれるに値する。マルクスはそのような稀有のテクストの書き手である。

「話がでかい」、「キック力」という表現には若干抵抗を感じるものの、マルクスの多面性、そのテクストに潜む可能性、思考を喚起する圧倒的な力を認識し、繰り返し読まれるに値すると言っていることには十分肯ける。

マルクスの限界を言挙げし、マルクス主義を批判するためにのみマルクスを読むことに意味はない。生活者としての実感を重んじ、現実と対峙していく姿勢を失わないことの重要さは言うまでもない。だが同時に、マルクスのテクストを読み込み、現代社会、資本主義が内包する危うさを見据え、思考をめぐらせることが無駄な営為とは思えない。

実存主義以降現在に至るまでの思想の変遷を見ても、脱マルクス主義、マルクス主義批判の潮流が絶えないとはいえ、マルクスがその席を明け渡したとは思えない。加えて、資本主義が私たちの予想を超える、或いは予想もしない形で変容していこうと、マルクスの普遍性は、あっさり消失するようなものではないだろう。この世界にユートピアが出現しない限り、マルクスは生き続ける。

高3以来現在に至るまで、私が読んできたマルクスに関する書物の中から、役立った本、刺激を受けた本の一部を参考までに挙げておきます。

〔マルクスの著書〕

■『経済学・哲学草稿』(岩波文庫)

■『資本論(1)~(3)』(岩波文庫)※(1)~(3)は第一巻に相当する。

■『共産党宣言・共産主義の諸原理』(講談社学術文庫

〔マルクス論、解説書ほか〕

■ 梅本克己 『唯物史観と現代』(岩波新書)

■ 宇野弘蔵 『経済原論』(岩波書店)

■ 吉本隆明 『吉本隆明全著作集12 思想家論 丸山真男論 カール・マルクス』(勁草書房) ※『カール・マルクス』は現在、光文社文庫で読める。

■ 廣松渉 『今こそマルクスを読み返す』(講談社現代新書)

■ 廣松渉 『物象化論の構図』(岩波書店) ※現在は岩波現代文庫

■ 三浦つとむ 『弁証法はどういう科学か』(講談社現代新書)

■ 城塚登 『新人間主義の哲学 疎外の克服は可能か』(NHKブックス)

■ 柄谷行人 『マルクスその可能性の中心』(講談社) ※現在は講談社学術文庫

■ 今村仁司 『マルクス入門』(ちくま新書)

■ 都留重人 『マルクス』〔人類の知的遺産50〕(講談社)

■ サルトル 『方法の問題』 (人文書院)

■ メルロ=ポンティ 『弁証法の冒険』(みすず書房)

■ アルチュセール 『マルクスのために』(平凡社ライブラリー)

■ デリダ 『マルクスの亡霊たち』(藤原書店)

■ フランシス・ウィーン 『 マルクスの『資本論』 』(ポプラ社)

〔その他〕

■ マルクス 『ドイツ・イデオロギー』『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』 (岩波文庫)

■ 的場昭弘 『 超訳『資本論』 』 (祥伝社新書) 『ネオ共産主義論』 (光文社新書)

■ 仲正昌樹 『ポスト・モダンの左旋回』 (世界書院) 『思想の死相』 (双風舎)

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