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「くにたちコショコショ市」エピソード(2)

ナンダロウ(南陀楼綾繁)さんご来場。偵察、いや失礼しました、陣中見舞いですね。「ミスター一箱古本市」の存在感はひと味もふた味も違います。皆さん和みながらも、会場全体の雰囲気が締まったように思えました。

お会いするのは昨秋以来。
<とみきち屋>とはお決まりの会話(にもなってないか)。
「今日もナンダロウさん好みの本、お持ちでない本はありません(笑)」
「またそういう云い方する(笑) いつものあれはないの?」と訊かれたので、
出品目録をお渡しする。
初めて古本市に参加した時に押しつけてしまってから、お会いできた際にはずっとお渡ししている。何かの役に立つとは思えぬが、受け取ってもらえるだけで嬉しいものです。
同じ事は岡崎武志さんにも。畏れ知らずというのでしょうか。

ナンダロウさんと<わめぞ>の古書現世・向井さんらによる新しいイベント「あいおい古本まつり」が3月に開催されますね。今から楽しみでです。

あいおいブックラボ 公式ブログ → http://aioibooklabo.blog.shinobi.jp/

若い女性のお客様に伊達得夫『詩人たち ユリイカ抄』(日本エディタースクール)を買っていただきました。少しお話したかったなと思いながらもできず悔やんでいたところ、横の方に廻られて小さな150円均一箱の中から佐野洋子の文庫を手にされました。
「一人でも多くの方に読んでもらいたくて、毎回のように出しているんです」と思い切って声をかけてみた。すると、

「昨日友人から借りた文庫本を読み終えたらとってもよくて。癌のことに触れ、車を買ってしまう…」
「ジャガーを買って、車庫入れでボコボコにしてしまう話ですね。朝日文庫の『役に立たない日々』だと思います。佐野さんの本いいですよ。お勧めです」
佐野さんのファンや興味を持っている方に出会うと、もうダメです。嬉しくて、つい押し売りのようになってしまう(笑) 『神も仏もありませぬ』『私はそうは思わない』『覚えていない』3冊まとめて購入いただいてしまった。1冊100円にて。

で、『詩人たち ユリイカ抄』の話をさせていただくのを忘れてしまった。いかんなあ。

実はこの本、春の一箱古本市の際にも出して、古本屋ツアー・イン・ジャパンさんに購入いただいた。ブログに書かれていたのでわかったのだが、その時お客さまの応対をしていた妻のとみきちが、「もう一度会えばわかるよ」と言っていた。

その妻が、「古ツアさんが岡崎さんのところにいらしてるよ」と言うので目をやると、雰囲気からしてそうだろうと思われる方が談笑していた。漏れ聞こえてきた会話から、間違いないと確信。
一瞬目が合ってしまう。鋭い眼差しだった。メモもとらず、あの目に古書店のレイアウトから品揃えまで焼き付けているのだなと納得。

男性のお客様にまず、トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』(サンリオ文庫)を購入いただく。既に1冊お持ちだが、汚れが目立つのでもう1冊とのことでした。そういう気持ち、よくわかります。それで本がどんどん増えていってしまうのですよね。昨春ちくま文庫版が出ましたが、この方にとってはやはりサンリオ文庫が大切だったのではないかと、勝手に思ったりしています。
その後話が弾み、シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出文庫)、野溝七生子『女獣心理』(講談社文芸文庫)、国枝史郎、色川武大と計5冊もお買い上げいただいてしまった。

不忍の一箱古本市にも行かれていらっしゃるし、仕事で訪れた仙台では、「Book! Book! Sendai」の一箱古本市にも足を運ばれたとのこと。<火星の庭>さんや<マゼラン>さんのこともご存知でした。
楽しいひと時をありがとうございました。

赤ちゃんを抱っこした女性のお客さまに、『神谷美恵子日記』(角川文庫)、矢田津世子『神楽坂 茶粥の記』(講談社文芸文庫)をお買い上げいただく。本好きの方なのだなあと静かに思う。赤ちゃんを連れていらっしゃるのだから地元の方に違いない。
他にもお子さん連れのお客様の姿をけっこう目にした。国立という街ならではの光景にも思える。

30代と思われる女性に、吉本隆明『夏目漱石を読む』(ちくま文庫)、三島由紀夫『源泉の感情』(河出文庫)を購入いただく。
妻のとみきちが午後2時頃会場に到着したので、その後は店をほとんど任せてしまった。そのため、お客様とは会えず。お話しさせていただきたかったなと残念でならない。吉本と三島の組合せなんて私にとってドンピシャのツボですから。

駄々猫さんとのコラボ<しま猫舎>でよく出店されている<しま猫>さんと、今回は本に関していろいろ話ができて嬉しかった。
ちょっと店を離れ戻ってくると<しま猫>さんがロラン・バルト『エクリチュールの零度』(ちくま学芸文庫)を手に持たれていたので、おや?と思う一方で俄然興味が湧いてきました。<しま猫>さんが出品されている本と傾向が違うように思えたからです。
「今日は買いたいのですが」というようなことを遠慮がちにおっしゃるので、
「もちろんです!」と私。

普段読む本と出品する本が同じとは限らないー そんなことが頭から抜け落ちていました。
バルトの次に『山之口貘詩文集』(講談社文芸文庫)、さらに青柳いづみこ『音楽と文学の対位法』(中公文庫)を。選ばれる本や会話の中から、言葉、言語というものに敏感で、特別の思いを抱かれている方に思えました。最後には高山なおみさんの本も購入いただいてしまった。
何度もお会いし、挨拶を交わすことはありましたが、こんなに本を買っていただき、話ができたのは初めてのこと。こういうのも本を通じての新しい出逢いと云えるのではないでしょうか。
<しま猫>さん、某資格合格まであと一歩ですね。がんばってください。

相棒の駄々猫さん、遅れてくるとは聞いていたが、午前中からいたことに気付かなかった。なにせ、お客様を魅了するあの明るい声が全くといっていいほど聞こえて来なかったから。
すごい格好をした女性が死にそうな感じで店番しているのを見て驚く。何と駄々猫さん…。
かなり具合が悪いのを無理して駆けつけたみたいだ。終了後しばらくダウンしてしまったとブログで知る。
新しい試み、企画など楽しみだけれど、無理はしないでほしいな。
やはり、元気な駄々ちゃんでないとつまらない。

駄々猫さんには村井弦斎『食道楽』(岩波文庫)を購入いただきました。

過日、ナンダロウさんとの初トークを終えたNEGIさんにお出でいただく。古本イベントの多くに関わられ、よく知られている方。会場でも多くの方々と楽しそうにお話されていた。
当店にとっては、大切なお客さまのお一人。これまでにたくさんの本を購入いただいています。造詣の深いNEGIさんがどんな本を手にされるか、店主という立場を離れ、いつも楽しみしにしています。

私が店を離れている際、まず徳川夢声の対談集を購入いただいたことを妻から聞く。その後、ゆっくりと会場を廻られてから再びご来店。荒川洋治『黙読の山』(みすず書房)、吉田健一『瓦礫の中』(中公文庫)を買ってくださった。荒川洋治を手にしてもらえるのは、佐野洋子、五味康祐(音楽本)などと共に<とみきち屋>お勧めなので、やはり嬉しい。『瓦礫の中』はどうなるだろうかと思っていたのですが、NEGIさんで納得。

<市川糂汰堂>さんに、五味康祐『人間の死にざま』(新潮社)をお買い上げいただく。店にいなかったのが悔やまれる。妻の話によると『西方の音』はお持ちだとのこと。
この本は4冊所有していた。小児科医の友人に、「五味康祐の本何か推薦して」と言われた時に1冊贈り、2冊は手元に残して置きたいので、残りは1冊。今回で出品するのは3回目。

五味康祐の名を知っている人が少なくなった、知ってはいても剣豪小説家のイメージが強いこともあってか、過去2回は見事に振られた。
3分の1が人の死に関わる随筆風の文。残りは五味さんの真骨頂とも云えるクラシック音楽にまつわる話という構成になっている。

檀一雄『火宅の人』への痛烈な批判は壇へのまごうことなき愛情があってのもの。交通事故で二人の命を奪ってしまった(過失致死)五味康祐だからこそ嗅ぎ分けられた、太宰治が抱える闇。いずれの文もずしりと腹にこたえる。

午後3時過ぎに、<どすこいフェスティバル>の女性お二人が来てくださいました。黒岩比佐子さんの話に夢中になってしまいTさんとばかりお話してしまい、すみません。ダメですねえ、周りが見えなくなってしまうのは…。

<どすこいフェスティバル>さんは昨年11月の「みちくさ市」に参加され、黒岩さん手書きのメッセージを飾られていました。

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2010年の2月下旬、Tさん、今回は会えなかったKさんたちが東大生協部で黒岩さんの著書『音のない記憶』(角川ソフィア文庫)を平積みしていることを伺い、黒岩さんに伝えました。苦しい抗ガン剤治療中でしたので、励ましにもなる素敵なお知らせに思えたからです。
その後のことは黒岩さんが生前、ブログに書かれました。

〔東大生協書籍売り場でのフェアの様子〕
http://blog.livedoor.jp/hisako9618/archives/2010-03.html#20100313

Tさんは「自分が売りたい本のPOPを著者ご本人に書いていただいたのははじめてです」と話しています。
こんなこともあったので、<どすこいフェスティバル>さんとお会いすると、どうしても黒岩さんの話になってしまいます。黒岩さんのことをこれからも伝えていきたいという気持ちを共有できるのは嬉しいことです。

今回出店されていた<四谷書房>さん。本の本をずらっと並べられていて圧巻でした。
<とみきち屋>は出店のつど、例え小さなものであっても特集或いはテーマを設けて来たのに、今回控えてしまったことが棘のように突き刺さりました。
自身店構えがすかすかに見えたのは、単に持参した冊数が少なかったというより、そんなところが影響していたように思えます。

<ゆず虎嘯>さんに<とみきち屋>を紹介していただいたモンガさんから、野呂邦暢の単行本を出され、しっかり引き取られていったと伺う。最初にモンガさんの箱を見なくてよかった。欲しくなるに決まっています。それに耐えなければならないのは精神的によくない(笑)

<ドンベーブックス>さんは、国立ということあって山口瞳の本をかなり出していました。初めての試みという300円均一もよく売れていました。当然均一ではなかったけれど尾崎一雄も渋かった。

「くにたちコショコショ市」には350人以上の方にお越しいただいたようです。あの厳寒の中を思えば、すごい数字だなと思います。ほんとうにありがとうございました。

今回<とみきち屋>は102冊揃え、76冊お買い上げいただきました。
平均単価369円。複数冊お買い上げいただきサービスで100円にした本も若干ありますが、低価格の本が少な目だったので、「みちくさ市」に比べ、単価は上がりました。加えて国立という土地柄も後押ししてくれたのでしょう。

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「第10回 不忍ブックストリート 一箱古本市」出品本紹介(1)

10回目となる「不忍ブックストリート 一箱古本市」。今回は原点回帰の意味合いもあって、一箱の大きさが38㎝×32㎝。昨秋が50㎝×40㎝だったから、かなり小さくなる。
作業を始めた途端唸ってしまった。一度に出せる本が少ない…。
箱の底の部分を犠牲にして、お客さまが見やすいようにと考え出した<とみきち屋>タワーをもってしても限界が…。
今回は、先発とベンチ要員を分け、スペースができたら随時補充する方針でいきます。忙しくなるなあ。

それでは、<とみきち屋>出品本の一部を2回にわたってご紹介していきます。

〔海外文学の森 絶版・品切れ本特集〕

■ソルジェニーツィン『収容所群島』(全6冊揃い・新潮文庫)
■ホフマン『牡猫ムルの人生観』(上下・角川文庫)
■ナボコフ『ベンドシニスター』(サンリオ文庫)
■ジュリアン・グラック『シルトの岸辺』(ちくま文庫)
■リルケ『フィレンツェだより』(ちくま文庫)
■コレット『私の修業時代』(ちくま文庫)
■リラダン『未来のイヴ』(上下・岩波文庫)
■マラマッド『アシスタント』(新潮文庫)
■トーマス・マン『詐欺師フェーリクス・クルルの告白』(新潮文庫)

■ヤン・ウォルカーズ『赤い髪の女』(角川文庫)
2回目の出品。山田詠美絶賛の絶版本です。

■ジャン・グルニエ『孤島』(竹内書店・AL選書)
■ジョイス・マンスール『充ち足りた死者たち』(白水社)
■ナボコフ『世界の文学8 キング、クイーンそしてジャック 断頭台への招待』(集英社)

■マルケス『百年の孤独』(新潮社・1999年改訂版)
現在、マルケス全集の中に『百年の孤独』は当然入っていますが、全面改訳して1999年に発行されたこの版は品切れです。私はこの装幀の方が遙かに好きです。

※上記以外にも何冊か揃えます。また、品切れではない海外文学本も出品します。

〔クラシック音楽の小部屋〕

■五味康祐『五味康祐 音楽巡礼』(新潮文庫)
■五味康祐『ベートーヴェンと蓄音機』(ランティエ叢書)
五味康祐は<とみきち屋>の看板。今回も出品します。

■宇野功芳『フルトヴェングラーの全名演名盤』(講談社+α文庫)

■吉田秀和『LP300選』(新潮文庫)
復刊された『名曲300選』(ちくま文庫)には入っていない、吉田秀和による当時の推薦盤が、56頁に亘り解説付で巻末に載っています。
『300選』の新旧文庫本については以前書きました。(→こちら)

■梅津時比古『耳のなかの地図―音楽を聴くこころ』(音楽之友社)
23日に2010年度「記者クラブ賞」を受賞した梅津時比古の稀少本。かくも静謐で美しい文章を書けるクラシック音楽評論家は、吉田秀和を除いて他にはいないと思います。

■『考える人 特集 クラシック音楽と本さえあれば』(2005年春号・新潮社)
「わたしのベスト・クラシックCD」では、水村美苗、蜂飼耳、杉本秀太郎、佐伯一麦、森内俊雄、保坂和志、小池昌代、平出隆などがアンケートに答え、好きなCDを語っています。
安岡章太郎、堀江敏幸、恩田陸ほかの記事、内田光子ロングインタビューも掲載。

〔とみきち屋強引セット〕

●旧制高校生三種の神器セット
 西田幾多郎『善の研究』(講談社学術文庫)
 倉田百三『愛と認識との出発』(岩波文庫)
 阿部次郎『三太郎の日記』(角川文庫)

●深代惇郎セット
  『天声人語8 深代惇郎』(朝日文庫)
  『深代惇郎エッセイ集』(朝日文庫)

深代の文章がどれだけ素晴らしいものだったか、現在の天声人語しか知らない方に是非読んでもらえたら。

●マラルメ論セット
 ブランショ『マラルメ論』(筑摩叢書)
 サルトル『マラルメ論』(ちくま学芸文庫)

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<とみきち屋>は
4月29日(木・祝) 11:00~16:00
「COUZT CAFE 藍い月」(http://www.couzt.com/)に出店します。

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「第9回 秋も一箱古本市」 エピソード(1)

にわか雨による一時間近い中断にもかかわらず、大勢の方々に一箱の会場、そして<とみきち屋>に足をお運びいただき、ありがとうございました。
また、不忍ブックストリート青秋部のお二人、実行委員ほかスタッフの方々、助っ人の方々。場所を提供くださった大家さん。後援いただいた古書ほうろうさん往来堂書店さんオヨヨ書林さんにも、心から御礼申し上げます。

スリップを見ながら、この本はどなたに引き取っていただいたか、その時どんなご様子だったかを思い起こしています。
今回はスペースの関係もあり、店主・とみきちと二人一緒にお客様とお話しさせたいただくことが思うようにできませんでした。従ってお客様のやや後ろから見守ることも多く、私が不在だった30分弱の時間帯も含め店主・とみきちからのヒアリングの時間も増えています。

それでは、恒例のエピソード集始めます。いつもどおり、一般のお客さまとのお話から。

出店場所「アートスペースゲント」さんでは、ナンダロウ(南陀楼綾繁)さん、助っ人のIさん(早番)、青秋部石井さんの教え子でいらっしゃる大学生のお二人(遅番)にお世話になりました。箱の後ろ側にはすでに移動済みの植木が並んでおり、一人が坐るとその後ろは人が通れず。お隣との間が40㎝ほどなので、店主・とみきちとの連携作業が困難と判断。番頭の私がお客様の後ろからフォローする方針を固める。

11時開店前に早くもお客様の姿が。開店の合図と共に一人の男性がお見えになる。いつも早い時間に来られ、何度かお顔は拝見している方。何度古本市に参加しても、最初のお客様にご来店いただく際には緊張します。その日がどんな流れになりそうか、そこである程度決まっていまいそうに思えるからです。
ひととおり箱をご覧になられ、何冊か手にとられた後一冊お求めいただき、ほっとしました。

■内堀弘『ボン書店の幻』(ちくま文庫)350円

自分の蔵書から手放せる本ではありません。たまたま古書店で見かけ2冊目を入手できたので出品。「この値段なら」と満足いただけたご様子。ありがとうございます。
一箱古本市翌日、店主・とみきちのブログ「とみきち読書日記」に一人のお客様からコメントを頂戴しました。

「毎度楽しみにさせていただいております。お気に入りの店主さんを先に回ろうと一番に伺いました。欲しい本が5冊はあったのですが1冊で我慢してしまいました。ごめんなさい。その後すぐ雨で、大変でしたね。午後は青空でよかったです。次回も楽しみにしております。」

私ども<とみきち屋>にとって、かようなコメントをお客様からいただけることは、ほんとうに嬉しいことです。しかも、雨のことまでお気遣いいただけたなんて。
雨粒が落ちてきたのは開催後20分も経過していなかったので、コメントの内容と私たちの記憶、スリップへの記載を考え合わせると、コメントをお寄せくださったのは、まずまちがいなくこの最初のお客様だった思います。(万が一間違っていたら、すみません)。来春も参加させていただくつもりでおりますので、ぜひお立ち寄りください。今度はゆっくりお話しさせていただければと思っております。

二人目のお客様に、■尾形仂『芭蕉・蕪村』(岩波現代文庫)■国枝史郎『神州纐纈城』(河出文庫)をご購入いただいた直後雨が降り始め、中断に入る。

一瞬今日は終わったか…と思ったが、東京は地域によってにわか雨という予報を朝方耳にしていたので、気を取り直す。ナンダロウさんがいてくれたのも心強かった。

そのナンダロウさんに、普段私たちが参考にしている「東京アメッシュ」を携帯で見てもらう。PCで見れる時ほどクリアではないが、雨は文京区から台東区にかけての一部、しかも局地的にしか降っていない。「回復する!」という期待が膨らむ。空を見渡せる場所に移動し見やると、遠くは雲がさけ、青空もちらっと見える。

本を屋内に入れさせていただき、一旦解散。再開時には各人の携帯に連絡をいただく、携帯を持っていない、バッテリー切れの方は助っ人Iさんに連絡を入れるということにして。
とみきちと二人、早めの昼食をとりに「谷中銀座」へ。85歳のおじいちゃまがやっているおそば屋さんへ。当日の人力車による結婚披露のこと、谷中のことなどいろいろ教えていただき、谷中情緒を思わぬ形で味わえた。食後「よみせ通り」をぶらぶら歩いていたら携帯が鳴り、再開のお知らせ。12時をまわっていたが、続けられることが嬉しくてならない。残り4時間弱楽しもうと、ゲントさんに戻る。

雨による中断でお客様にどれほど来ていただけるか、一抹の不安はあったものの、再開後途切れることなく大勢のお客様がお見えになる。「一箱」の認知度の高さ、谷根千という街の魅力、底力を実感する。もちろん、多くの顔見知りの方々にも午後から続々とご来店いただき、励まされる。心強くもあり、楽しい。

■深沢七郎『人類滅亡的人生案内』(河出書房新社)
■古井由吉『円陣を組む女たち』(中公文庫) 『櫛の火』(新潮文庫)
■柄谷行人・中上健次『小林秀雄をこえて』(河出書房新社)
■長谷川宏『ヘーゲル『精神現象学』入門』(講談社選書メチエ) 計5冊

若い男性の方に、こういう選書で引き取っていただけるのは嬉しいです。「幅広くお読みになられるのですね」と声をかけさせていただくと、「そうでもないです」と微笑まれる。それから少しお話しさせていただく。深沢七郎はお好きな作家で、古井由吉『円陣を組む女たち』は探されていたとのこと。また、お会いしたい。

■ナボコフ『ナボコフ全短篇集〈1〉』(作品社) 
■バフチン『小説の言葉』(平凡社ライブラリー)
■鶴見俊輔『夢野久作と埴谷雄高』(深夜叢書社)
■内堀弘『石神井書林日録』(晶文社)
■林芙美子『林芙美子紀行集 下駄で歩いた巴里』(岩波文庫) ほかに文庫3冊
計8冊 5,000円

雨天中断後間もなく、リュックを背負われた男性がご来店。今回、当店で冊数、金額ともに一番のお買い上げいただきました。「安いよねえ。もっともっとほしいんだけれど」と言っていただく。そんなに安くはしていないのに…。ありがたいことです。
「ナボコフは〈2〉も出品できればよかったのですが」とお声をかけると、「いやあ、〈1〉だけでも、この値段なら十分」と。またのお越しをお待ちしております。

先に紹介させていただいた若い男性の方もそうですが、当店に初めてお越しいただいたにもかかわらず、まとめて購入くださる方が毎回のようにいらっしゃるのが驚きであり、嬉しいことでもあります。

■五味康祐『いい音いい音楽』(読売新聞社) 800円

一人のお客様が箱の前にしゃがんで本を選んでいらっしゃる。そのため、他のお客様が箱の前までは近寄れなません。前2回とは違い、ほぼ一日中このような状態だったので、申し訳ないなと思う。もちろん、先に見ていただいているお客様が迷惑などと言うことでは決してありません。二人のお客様が同時にご覧になれるスペースがなかったのです。

私の左後方から人影が。当店の箱をやや離れたところからご覧になり、いきなり「えっ?おっ、あったよ!」。お客様の目線が何をとらえたのか何とはなしに感じられ、思わず期待を抱いてしまいました。「今手にしておかなければ」という感じで、他のお客様の邪魔にならないよう、1冊の本に手を伸ばされました。
ビンゴ!! いてもたってもいられず、箱の前にいらっしゃるお客様に「横をちょっと失礼します」と声をおかけして、私は店主・とみきちと場所を交替。

箱の前が空いたタイミングを逃さず、「五味さん、お探しでしたか?」とお声をかける。「そう、探していたんだよ」と満面の笑み。その表情から、どんな本かご存じなのはわかりました。こうなると、中身をくどくど説明するのはかえって野暮というもの。

お買い上げいただく際、「巻末にある、娘さんの父への追悼文(「父と音楽」)が素晴らしいです」とひと言だけ。「そうですか。楽しみです」とお客様。

脱線しますが、一部だけ紹介させてください。自らピアノを弾き、これこそ理想と思える音に関して意見が一致すると、うれしそうな父と握手して喜ぶ娘の言葉です。(文中タンノイオートグラフとあるのは、今や伝説と化した有名な英国製スピーカーのこと)

母は音楽を聴いているときの父が一番好きだという。父がひとり静かにタンノイオートグラフの前に坐り、音楽を聴いているときの表情はとても厳しい。まだ二十年余りしか生きていない私に、父の音楽への姿勢を語りうるとは思っていないが、瞭(あき)らかに、父は、流れる音楽のなかに神を観ていた。バッハ、モーツァルトをとおして神の聲(こえ)をきいていた。それは父にとって、もっとも敬虔な時間であったと思う。だから、私は、音楽と対峙している父の真摯な横顔をみるたびに、どうしても声をかけられなかった。(略)父亡き今、最高の鎮魂は音楽を鳴らすこと、それはわかっている。しかし、あまりに悲惨でなかなかかけられなかった。(略)できることならば、毎晩のように、父の愛した音楽を聴かせてあげたい。しかし、私の手ではタンノイは鳴ってくれない。あの素晴らしい澄明な、ふっくらした気品にみちた音をきかせてはくれない。父の死とともに、殉死したのだ。

■森山大道『犬の記憶』『犬の記憶終章』(河出文庫)
■川村湊ほか『戦争文学を読む』(朝日文庫)
■熊野純彦 編『現代哲学の名著』(中公新書)

以前「みちくさ市」で閉店間際ということもあり、けっこう値引きさせていただき、加藤典洋『村上春樹のイエローページ1・2』ほか3冊をご購入いただいたおじいちゃまにご来店いただく!昔から本はよく読まれるとおっしゃっていました。その時古本市っていいねえという感想もいただいたのですが、一箱に来ていただけるとは感激。しかし、私の不在時(泣)。とみきちが「以前もお買い上げいただきましたので」と、100円分だけ気持ちサービス。それでも喜んでいただけたご様子。きっと店主さんとのやりとりをと楽しまれていらしゃるのでしょう。

■荒川洋治『文学が好き』(旬報社)
■鮎川信夫・大岡信編『戦後代表詩選』(詩の森文庫)ほか3冊

<とみきち屋>常連のお客様のお一人。お名前も伺えたので今回からYさんと呼ばせていただきます。9月の「みちくさ市」で荒川洋治『夜のある町で』(みすず書房)を引き取っていただいたのですが、今回はまず荒川洋治の本を手にされました。昨秋以来何冊も当店から本を購入していただいてますが、図書館で読める本はお借りになって、読後購入するかどうかをじっくり考えられる方。自らの足でこれはと思える本を探される方なのです。
出品していた辻邦生・水村美苗『手紙、栞を添えて』(単行本)をご覧になり、「最近ようやく文庫本のほうを手に入れたんですよ、格安で」とYさん。本に対する姿勢と愛情の深さを感じます。そのような方に対して番頭・風太郎(私です)はあろうことか、押し売りに入る(笑)。

「きっとYさんをお待ちしていたんですよ~、この本。持って帰ってもらいたいって(笑)」
「そうですか?まいったなあ。う~~ん」といつもの素敵な笑顔で迷われるYさん。
「巻末の一覧表が荒川ファンにはたまらないのです」と背中を押すどころか、背中に負ぶさる。
「じゃあ、もらおうかな」とYさん。ありがとうございます!!

これまで荒川さんの本を何冊も出品してきたので、今後出品できるのは残すところ1冊となってしまいました。もちろん『文学が好き』は、自分の蔵書1冊のみで、どこかで入手しない限り出せません。ほんとうによかったと思っているんです。Yさんの手元に渡って。いつも本を介しての楽しい時間をありがとうございます。

『手紙、栞を添えて』を読まれ、水村美苗のイメージが変わったとのこと。きっと書簡を交わした相手がよかったのではないかと思います。

■保田與重郎『後鳥羽院』(保田與重郎文庫・新学社)
■ローデンバック『死都ブリュージュ』(岩波文庫) ほか4冊

もう、古本市ではおなじみのHさん。もちろん、当店にとっても大のお得意さまです。

いきなり伊藤勝彦『天地有情の哲学』(ちくま学芸文庫)を手にとられる。

「伊藤勝彦よく読んだよ」とHさん。それからしばし伊藤勝彦の話。吉本隆明との対談があることを教えていただく。(おそらく「思想の発生する基盤」のことではないだろうか) その後、スタージョン『一角獣・多角獣』(ハヤカワ書房)ほか何冊かの本についてお話させていただく。

もうすでに一袋分お買いになられていて、この先他店を廻られるのはきついでしょうという状態だったので、Hさんの本をお預かりする。するとまあ、長い旅に出られる。お戻りになられた時には合わせて3袋か4袋になっていたような。お買いになったものの中から「こんなの買ったよ」と一冊みせていただく。その作家の本を以前当店から買っていただいたことがあったので、その点は何とも思わなかったのですが、雑誌としては珍しくはないのです。「誰もが飛びついて買う普通の雑誌(本)はかえってHさんのアンテナに引っかからないのかも」と思うと不思議に納得がいく。「それ、面白いですよ」とお答えすると、「そう。楽しみだな」とHさん。そのお顔がなんともキュート。私の想像など及ばないくらい本に造詣がおありだろうし、本を選ばれる速さ、ご覧になるときの鋭い眼光。本来ならこんな感じで接するのは失礼なのかなと思いつつ、一向に変わらない<とみきち屋>でございます。

お隣で出店されていた「まちとしょテラソ」の小布施町立図書館長・花井さんにHさんの事をお話ししたら、とても驚かれていました。どれだけの本を買われたか、実際ご覧になられたわけですし。(小布施のことはまた改めて)

古本市に参加する回数が増える度に、新しいお客様、店主さん、スタッフの方との出会いがあります。また、親しくさせていただくようになった方にわざわざお越しいただいたり、メールで励ましていただいたりと、嬉しいことがどんどん増えていきます。そのため、終了後のブログも少しずつ長くなっていくような。今回は、1週間がかり(これは変わらず)、4回くらいになるでしょうか…(笑)。
初めてお読みいただいた方も既にお気づきかと思いますが、「一箱古本市」全体のレポートではありません。私ども<とみきち屋>の目に映った、いわば風景を描いたものです。その点、ご了承ください。

今回の「秋も一箱」、春の「一箱」、そして素敵な谷根千の街の様子が写真でアップされています。まだ訪れたことのない方にも、その雰囲気がきっと伝わると思います。ぜひ、ご覧になってください。スライドショーも楽しめます。

こちら→ http://f.hatena.ne.jp/shinobazukun/

また、モンガ堂さんがリンク集を作成してくれています。こちらもぜひ。

こちら→ http://d.hatena.ne.jp/mongabook/20091011/p1

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モーツァルト 「トルコ行進曲」 悲しみの調べ

遍く知られ、愛奏されてもいるこの曲について、今更書くことがあるのかと思われるかもしれませんが、少しお付き合いください。

ピアノをならい始めた少女なら必ず一度はお稽古させられる初心者向きのあのトルコ風ロンドを、母を喪った日にモーツァルトは書くのである。父親への手紙(※)より、よっぽど、K三三一のこのフィナーレにモーツァルトの顔は覗いている。ランドフスカのクラブサンでこのトルコ行進曲を聴いた時、白状するが私はモーツァルトの母の死後にこれがつくられたとは知らなかった。知ってから、あらためて聴き直して涙がこぼれた。私の娘もピアノでこれを弾く。でも娘のでは涙はうかびもしない。演奏はこわい。涙のまるで流れないトルコ行進曲が今、世界のどこぞで恐らく無数に演奏されているだろう。モーツァルトは二百年後の今だってそういう裏切りかたをされている作曲家だ。

五味康祐『五味康祐 音楽巡礼』(新潮文庫)より

(※)母の死を、最初は「母は重態です」と偽り、六日後に前便の虚偽を詫びて、「ぼくも心から苦しみ、激しく泣きました。・・・・・お父さん、お姉さん、泣けるだけお泣きなさい。しかし、しまいにはお諦めなさい」と、父に宛てた手紙。

母の死の直後に、有名な「トルコ行進曲」を含む、ピアノソナタ第11番イ長調K.331を書いたことを、この本で知りました。22歳の頃だったでしょうか。爾来、このエピソードに呪縛され、誰の演奏で聴いても、心から「ああ、これだ」という演奏に出逢えませんでした。内田光子、グールド、ギーゼギング、バックハウス、ピリス(新録)アラウ、ペライア、グルダ、ブレンデル、ハイドシェク、ポゴレリチ、ハスキル、ラローチャ、サイetc. 数多くの演奏を聴いてきたのですが。

ピリスの新録音は評価も高く、事実美しいのですが「トルコ行進曲」が自分の求めるものと違います。グールドの演奏は、一般に流布されているモーツァルト像を敢えて壊すことを意図したかのような、特異な演奏のため、物議をかもしたものです。低音の分散和音が重苦しく、例によってグールドの声が聞こえてきてしまうのが気になるものの、嫌いではありません。グールド自身、後期のモーツアルトを評価していないということはあっても、凡百の演奏家ではなし得ない世界を築いているからです。

楽譜上の指定はアレグレット(やや快速に)となっていますが、アレグロ(快速に)で弾く演奏者も多く、私が思い描く理想の「トルコ行進曲」が現れることはないのでは、と思っていました。

年に何度も聞きたい曲ではないため、マレア・ペライアの演奏で聴くことが比較的多いという程度でした。

先日、街の小さな中古CDショップの廉価コーナーを何とはなしに見ていたら、ピリスの旧録音が目に止まりました。一時期活動を停止する前の演奏。「演奏の比較もできるし、200円なら買ってみるか」と、期待もせず軽い気持ちで購入。

帰宅後聴き、第3楽章に入った瞬間、「えっ…」。その後、10回ほど連続で「トルコ行進曲」の含まれる第3楽章ばかり繰り返し聴いてしまいました。

ようやく、「理想に近い」演奏に巡り逢えた気分です。確かにテクニック、表現力の大きさの点で新録音には及びません。まるで練習曲を弾くかのように素朴で、飾り気のない演奏ですが、この「トルコ行進曲」は心の奥深くまで届いてきました。母を喪ったモーツアルトの悲しみが伝わってくるかのように。

作曲家がどのような精神状況下で作曲したか、何を意図して作曲したかを、知らずにいる方がいいこともありますし、逆に、知っているから適度なスパイスとなって、味わいを深くしてくれる場合もあります。有名な作曲家は恋愛にからんだエピソードも多く、たくさんの本が出版されているのも肯けます。

同じ曲が、演奏家によってまるで違う曲のように聞こえてくる。何度も何度も聴いた曲なのに、初めて聴いたように感じさせてくれる。クラシック音楽の面白さであり、魅力の尽きないところです。

音楽は、その人の人生に重ね合わせて聴くことが許される。クラシック音楽に限らず、そう思えます。あなたにはあなたの「トルコ行進曲」があるように。

モーツアルト『ピアノ・ソナタ第8(9)番、第10番、第11番』 ピリス(ピアノ)

私が購入したのは、2003年に発売された『11番、8(9)番、15(16)番、16(17)番』という組み合わせ〔COCO-70629 DENON〕ですが、トルコ行進曲は現在発売されているものと同じ演奏です。

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