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2011年12月

古本の深い森 岡崎武志『古本道入門 買うたのしみ、売るよろこび』(中公新書ラクレ)

楽しみにしていた岡崎武志『古本道入門 買うたのしみ、売るよろこび』(中公新書ラクレ)を一気に読み終えた。

古本にまつわる世界をさまざまなアングルから捉え、ここぞというツボを押さえながら、これだけ親切に解説している本はないと思わせる、まさに「本好き以上、古書通未満」にとって格好の入門書だ。もちろん、古本の世界に飛び込んだばかりの初心者への配慮も十分になされている。
著者自身の古本への情熱だけでない。古本とともに歩める喜びを、一人でも多くの人に味わってもらいたいという切なる思いがひしひしと伝わってくる。

古本好きの域を出ない私は、「道」を<どう>ではなく、敢えて<みち>と解釈させてもらった。
読後、自分なぞは古本「道(どう)」のとば口にも立っていないことを認識させられたとはいえ、古本に関わることの面白さ、喜びが自然に湧き上がって来たからだ。それだけ懐の深い本である。

古本屋でのマナーに関する記述はどれも頷けるものばかり。
いい古本屋とは「本棚が呼吸している店」。これは思わず膝を叩きたくなる名言。

大正から昭和初期の黒っぽい本を買い始めたころの気持ちを語っているあたりは、臨場感があってぐいぐいと引きこまれる。

歴史の教科書や年表からは伝わってこない、時代の生の空気が、古本という現物を通して身体へ入って来た気がした。これはありがたかった。買っても買ってもまだ買える……というより、買ったことで、買う理由や動機が次々と土のなかから掘り出されてくるという感じだった。

「神保町へ行かずして、古本について語るなかれ」。この言葉、5年ほど前までは仕事の関連もあってほぼ毎日のように神保町に赴き、仕事の合間や仕事帰りに古本屋巡りをしていたものだが、ここ数年めっきり足が遠のいてしまった私には耳が痛い。
コミガレ(小宮山書店のガレッジセール)やタテキン(田村書店の店頭均一)などの名称を知ったのも最近では、やむを得ない。
それは置いて、今の神保町の様子が手に取るように分かるし、神保町初心者レベルになってしまった私には丁寧なガイドにもなっている。
「神田伯剌西爾(ぶらじる)」が著者のとっておきの場所だなんて、懐かしさがこみ上げてきた。私も若いころから通っていたし、買った本をここで読むのが至高のひと時だった。

おすすめ古本町の紹介には何とも云えぬ旅情を誘われる。函館、仙台、松本、長野、金沢、その土地の匂いまで伝わって来そうだ。古本屋巡りがメインでなくとも行きたくなってしまう。
海が見たくなると江ノ電に乗って訪れる鎌倉なのに、一度も古書店に入ったことがない。
京都、奈良もしかり。かつては出張で1~2週間、年5回平均大阪に行っていたのに、休みとなると寺社ばかり巡り、京都・奈良の古本屋には足を踏み入れることもなかった…。
あの頃、この本を読めていたら、きっと過ごし方も変わっていたことだろう。

古本屋の敷居が高いと感じていた人々が、日常生活のなかで抵抗なく古本を売り買いできる環境をつくった。また、取り扱われることが少なくなっていた類の文庫本を常時並べている。
こういったところにブックオフの存在価値を見ている著者の目は、冷静、かつ客観的である。
賛否両論あるブックオフだが、どう付き合えば古本の面白さを見いだせるか、ブックオフを「ブ」の呼称で通じるようにした、著者ならではの指南がされている。

新刊では入手できない探求本を見つけられる、或いは知らなかった本に出逢える場所と思って、私は長年古本屋に足を運んでいるので、どうも「捕獲」「釣果」「戦利品」といった言葉に馴染めない。そんな私だから、本を買う行為を「花を摘む」と表現している箇所には震えてしまった。
プロやセミプロに荒らされていないブックオフの見つけ方を書いている部分で用いられた言葉ではあるが、その温もりのある素敵な言葉が今も心に染みわたっている。

思わず顔が綻んでしまうユーモアが、隠し味のように散りばめられているので、肩が凝ることもない。
南部古書会館即売展のガレッジセールで、古本者が双眼鏡を使う話などは笑える。いや、その熱意には驚きを禁じ得ない。(ここは実際に読んでみてほしい)

「古本を売る、店主になる」の章では、一般の古書店に本を売る際の心構え、何をどう売ればよいかが具体的に書かれていて参考になる。さらに、素人も参加できる「一箱古本市」「みちくさ市」で対面販売することの喜びを知り、その後実際に古本屋になっていった方の事例が挙げられ、最後には古本屋を開業するにあたっての<七つの鉄則>も開陳されている。ここはこの章のハイライトともいえ、開業をするつもりがなくても、古本屋を見る視点が変わるのではないだろうか。
いやもう、盛りだくさんの内容で、全編飽きずに読み通せる。

著者の拘りはあっても、「これしかない」という押しつけはない。「こんなふうにアプローチすれば、古本の世界が拡がり、深まっていきますよ」という見事な羅針盤(ガイド)になっている。
同時に、現在古本を取り巻く状況がどのように変化しつつあるかを知ることもできる。
古本を買い始めた頃に戻り、まっさらな気持ちで書いたという著者の、まさに現時点での「集大成」であることは言を俟たない。

古本に少しでも興味を持つ方なら、決して損はないお勧めの書です。
古本については一家言持っている方でも、きっと新しい発見があると思いますので、是非読んでみてください。

最後に著者のあとがきから。

長い人生、古本の魅力を知らずに済ませるのはもったいない。時代の刻印がある、さまざまな所有者がバトンのように受け継いできた古本を、どうぞ、手に触れてみてほしい。そこから「道」は生まれ、先へ続いていく。

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「第2回くにたちコショコショ市」エピソード(2)

当日は晴天に恵まれたこともあって大勢の方が「やぼろじ」に足を運ばれた。土曜から二日続きで催された「秋のガーデンパーティー」も、地元では知名度が高いのでしょう。とにかくお子さん連れが多く、和みます。こどもたちの明るい姿をは、今なお大きな影を落としているあの大震災や原発事故のことをしばし忘れさせてくれました。

手作りの豆本が大人気の暢気文庫さんがご来店。その繊細なつくりが美しさを湛え、人を魅了してやみません。小さな空間を、作家のどんな言葉で充たすか考え、使う文字を選び、デザインする。かける時間と労力はたいへんなものだと想像されます。書物への深い愛情がひしひしと伝わって来ます。そういう暢気文庫さんだから、周りの空気がやわらかくなるのですね。
モンガさんがブログ「モンガの西荻日記」で暢気文庫さんの豆本の魅力を伝えています。
こちら→ http://monganao.exblog.jp/16881216/

ジュュンパ・ラヒリ『その名にちなんで』(新潮文庫)を購入いただく。お勧めの作家なので嬉しい。
著者を一躍有名にした『停電の夜』(新潮文庫)は現役だけれど、こちらは早くも品切れなんて残念です。

全国を旅して本を売っている<放浪書房>さん。今回は参加されないのかなと思っていたら、屋号を<TIME ADVENTURE RECODE>と替え参加。弁が立ち、面白いし、とにかく明るい方。
<コショコショ市>の後、国立か立川で路上販売される予定で、「一緒にどうですか」とお誘いいただいたが、丁重にお断りさせていただく。<とみきち屋>にそんなパワーはありません(笑)
<ゆず虎嘯>さんのお二人も加わり、<放浪書房>さんが万が一何かのトラブルに巻き込まれ、警察から<ゆず虎嘯>さんに連絡が来たらどう答えるかという話になる。
「そんな人知りません(笑)」と、即座に<ゆず虎嘯>さん。さすが(笑)
身元引受人は断っていたけれど、お店を宿代わりにしてもいいよと提案していました。やさしいですね。
<ゆず虎嘯>さん、絵本が人気でよく売れていました。

さて、<とみきち屋>常連の方々。

jindongさんはお住まいがかなり遠くと初めて伺う。だから「一箱古本市」も「みちくさ市」も遠征に近いとか。それでも、今年は<とみきち屋>が出店した古本市8回すべてに来ていただき、お買い上げいただきました。ほんとうに有難いことだなと思います。以下の本を購入いただく。
■桑原武夫『詩人の手紙―三好達治の友情』(レグルス文庫)300円
■中上健次『現代小説の方法』(作品社)700円

前者は三好達治に惹かれてとのこと。後者はちょっと驚きました。これまで購入いただいた本からは想像がつかなかったからです。髙山文彦『エレクトラ―中上健次の生涯』(文春文庫)は何冊でも届けたいと思う本なので最初から用意してあったのですが、『現代小説の方法』の方は同じ著者だからということで前日急遽付け加えたもの。『エレクトラ』は読んでいらしたので、突然の思いつきが功を奏しました。jindongさんはほんとうに幅広く読まれる方なので、新しい発見が嬉しい。

■大杉栄『漫文漫画 〔復刻・文庫版〕』(ARS)700円
■牧野信一『父を売る子 心象風景』(講談社文芸文庫)500円
■木山捷平『長春五馬路』(講談社文芸文庫)500円
■合田正人『レヴィナスを読む』(ちくま学芸文庫)500円
■島尾ミホ『海辺の生と死』(中公文庫)350円

9月の「みちくさ市」からいろいろお話させていただくようになった(E)さん。なぜ( )付かというと、(E)さんのご要望があったからです。カッコイーになるから。
久しぶりに私の好みの本とジャンルがかなり共通する方と出会いました。一度に10冊は併読できるという(E)さん。読書量もすごいけれど、読みの深さに圧倒されます。

レヴィナスはどうしても外せない思想家だが、テキストが難解なので読むのに苦労する。内田樹の一連のレヴィナス論でとっかかりが掴めたという点では私も同じ。
レヴィナスの話から(E)さんの話は、田中小実昌へと。
過日、田中小実昌の作品が入っている文学全集を買われたとのこと。
「澁澤とか中井英夫と一緒の変わったものでね」
「『カント節』も読める小学館のでかいやつですね。私も持っています」(昭和学全集31)
「それそれ。月報に載っている柄谷行人の田中小実昌論が秀逸でね」
そこから田中小実昌の文章はかなり難解で深いという(E)さんのお話に聞き入ってしまいました。

読んでいる本や、出張先で購入された本をよく見せていただくのですが、今回のお伴本は加藤郁乎『後方見聞録』(学研M文庫)。驚きました。同じ本を出品していたからです。今話題の本ならまだしも、この一致はかなり珍しいのではないでしょうか。
また楽しくお話しさせてください。

■川端康成『文芸時評』(講談社文芸文庫)600円
■カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』(ちくま文庫)300円

これまでに何度も<とみきち屋>でお買い上げいただいているMさん。今回ようやくお名前を伺え、お話しすることができました。笑顔で本を見ていらっしゃるMさんは、強く印象に残るので、すぐお顔を覚えることができました。Mさんのことをこのブログで触れていることは読んでくださっていたのでご存知でした。もっと早く声をかければよかったな。お勤め先が国立にわりと近いということでわざわざ足を運んでくださいました。

川端の本は過去2回振られたので、今回ダメだったもう出品はやめようかと思っていました。川端の凄みを実感できる本だし、既に品切れなのにどうしてかなあと悩んでもいました。それがMさんの手に渡ったので喜びもひとしお。
またお越しください。お待ちしております。

■一又 正雄『杉山茂丸 明治大陸政策の源流』(原書房)700円
■山川方夫『目的を持たない意志』(清流書房)500円
■池島信平・嶋中鵬二『文壇よもやま話 上下』(中公文庫)800円 ほか5冊

最初マスクをされているのでわかりませんでしたが、選ばれる本と雰囲気から、初めての方とは思えませんでした。お買い上げいただいた後にマスクを外されたので「ああ」と気がつきました。鋭い視線で本を真剣に選ばれる方なので、お声をかけるのは憚られるところがありました。今度お会いできたら、思い切ってお話させていただこう。いつもありがとうございます。

■フォークナー『アブサロム、アブサロム! 上下』((講談社文芸文庫)800円
■西脇順三郎『アムバルワリア 旅人かへらず』(講談社文芸文庫)350円
■古井由吉『水』(集英社文庫)200円
■小島信夫・保坂和志『小説修行』(中公文庫)250円

若い男性が熱心に本を見ている。手に取る本を眺めながら思わず「うん、うん」と頷いてしまう。
どう見ても学生さんなので、ある期待を込めて尋ねてみました。
「学生さんですか?」
「ええ、地元の国立にある大学なんですが…」
いきなり大学名を云わないところがなんとも奥ゆかしい。
「一橋ですね。お待ちしてました。一橋の学生さんに来てもらえるのを夢見ていたんですよ」
なんて云ったものの通じなかっただろうな。

一橋は社会科学系の学部しかないので、選んでもらった本が嬉しい。しかも、地方から上京しての一人暮らし。
「周りにはいないのでひとりで文学系やってます」という言葉にさらに心を揺さぶられる。
「応援したいので学生割引、5冊1000円で」と伝えたら、とても喜んでもらえました。
若い方には多くの本に出会ってもらいたいといつも思っているので、古本市では学生さんと判ると、けっこうおまけしています。
「くにたちコショコショ市」も一橋大学ほか、沿線の大学生に認知されたら、お客様の層が厚くなるのではないでしょうか。

小学生のお子さんを連れたお母様に、■鶴見俊輔『思い出袋』(岩波新書)を購入いただいたのですが、その方の持っていた袋が、英字新聞を材料に作られたものでお洒落。
やぼろじ近くの畑で野菜を買ったら、その袋に入れてくれたと聞きました。その後何人もの女性が同じ袋を持って歩いているのを見かけました。こういう光景はいいですねえ。

乳母車を引いたお母様には中沢新一『アースダイバー』(講談社)を。これで3冊目です。一番最初はdozoさん、次に高校友人のA。

■シオラン『四つ裂きの刑』(法政大学出版局)1000円■ドゥルーズ『ニーチェと哲学』(河出文庫)400円の2冊を女性に購入いただく。思想・哲学分野は<とみきち屋>の売りの一つになっているので嬉しい。名札を付けていらっしゃらなかったのではっきりとは分かりませんが、ひょっとしたらコショコショ市出店者関係の方だったっかもしれません。

佐野洋子の新刊と林哲夫の本を購入いただいたご夫妻からは「どこで店を出しているんですか」と訊かれました。毎回1、2度はある質問ですが、フリーマーケットは別として、本だけを全くの素人が「古本市」で売っているとは思えない方も、まだいらっしゃるのでしょうね。

モンガさんには、集めているということでウェッジ文庫3冊、上林暁の随筆含め7冊も購入いただいてしまった。初めてですね、こんなに引き取っていただいたのは。
ほかにも、当日出店されていた<やまがら文庫>さん、<つぐみ文庫>さん、<junglebooks>さん、<古本・泡山>さんに。また会場に足を運ばれた<mondobooks>さんにも購入いただきました。ありがとうございます。

<RAINBOW BOOKS>さんとは初めてお話させていただきましたが、ゆず虎嘯さんが出店者紹介でコメントしていた通り、面白い方でした。

エピソード(1)で触れた、地元国立お住まいの古本ライター・岡崎武志さんには、ブログ「okatakeの日記」で、<とみきち屋>のことを書いていただき、恐縮です。
http://d.hatena.ne.jp/okatake/20111128

『夫婦善哉』に出てくる柳吉は、能天気でフラフラしてばかりいるという点で私に似ているとも云えますが、岡崎さんが脇役だなんて畏れ多くて舞台に上がれません(笑)

もう間もなく発売される岡崎さんの『古本道入門 買うたのしみ、売るよろこび』(中公新書ラクレ)、楽しみでなりません。

車でとはいえ、160冊持ち込んだのは予想通りやはり無謀でした(笑)。もっと考えて選ぶ必要があったと感じています。こども連れの方が多いので、妻・とみきちの得意分野である絵本も加えるとか。
で、結果は70冊、平均単価377円。諸々の条件を考えれば決して悪くはなかったと思います。
売り上げの7割前後が常連の方や、知り合いの方であることに変わりはありませんが、ほんとうにありがたいことだなと、心から思っています。

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