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黒岩比佐子さん一周忌 「語り継ぐ 黒岩比佐子の会」のこと

3年前の11月17日に私はこのブログを書き始めたのですが、その2年後の同じ日に黒岩比佐子さんが亡くなられるなんて、言葉もありませんでした。

黒岩比佐子さんが他界されてから今日で一年になります。
この一年、みちくさ市や一箱古本市に出るたび、比佐子さんがひょっこり現れてくれるのではないかと探してしまう自分がいました。逝ってしまったとは思えない、思いたくない気持ちが心を占めていたからだと思います。
そんな中、11月14日、神保町の学士会館で催された「語り継ぐ 黒岩比佐子の会」に出席し、黒岩さんはもうこの世にはいないのだと、初めて実感するに至りました。

今も黒岩さんのブログ「古書の森日記 by HISAKO」を管理、代筆され、事務局の中心として不眠不休で動かれた宮崎さんにこの会のご案内いただき、感謝の念にたえません。
私は黒岩さんと親しくお付き合いさせていただいたわけではありませんし、メールを除けば、直接お話しできた時間もわずかだったので、語り継げるほどのものがあるだろうか…と躊躇い、ひょっとしたら足を運べなかったかもしれないからです。

宮崎さんは、黒岩さんが亡くなられた直後に私が書いたブログ記事「いつかパラソルの下で…」を以前読んでくれていました。私に連絡がいっていないかもしれないと、今回わざわざブログにコメントくださいました。
その際、「追悼・黒岩比佐子さんDVD上映会」で(私が黒岩さんにお見舞いとして差し上げたCD)ラインベルガー『ヴァイオリンとオルガンのための作品集』から選曲し、音楽として使っていただいたことを伺い、感無量です。ありがとうございました。当日お話しできて嬉しかったです。

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100人を超える方々がそれぞれの思いを抱き、集って来られました。
献杯後には、昨年6月のトークセッション、10月の講演会のダイジェスト版が会場正面のスクリーンに流されたのですが、黒岩さんが実際に話しているような、不思議な感覚に囚われました。岡崎武志さんの問いかけに、楽しそうに受け答えする比佐子さん。その眩しいばかりの笑顔は闘病中という事実を束の間忘れさせてくれるものでしたが、改めて見ても同じ気持ちになってしまいます。
しかし一方で、亡くなる一か月ほど前の『パンとペン』刊行記念講演には、言葉をひとつひとつ噛みしめ、紡ぎ出す比佐子さんがいます。
今でも忘れられない結びの言葉。
難産のすえに産み出した我が子の如く著書に手を触れ「私にとってはこれは、いろんな意味で忘れられない、一冊に、なると、思います…」
そして、
「堺利彦も、楽天囚人として乗り切ったわけなので、ええ…これから頑張って乗り切っていきたいと思います。ほんとうに今日はありがとうございました」
絞り出すように語り終えた黒岩さんの心の中に渦巻いていたものを想像するだけで、胸が詰まります。

会場には黒岩さんの直筆原稿、メモ、絵、スケジュール帳ほかさまざまなものが展示され、これまで知ることのなかった黒岩さんの一端に触れることができました。

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黒岩さんの息吹が生々しく伝わってくるものもあれば、いかにも女の子らしい絵があったり、ライターとしての矜持が滲み出ていて、こちらの肺腑に染みわたってくるものなど、目が眩んでしまいました。
小学校卒業後に書かれた400字詰め原稿用紙135枚におよぶ「わが生い立ちの記」には枚数、書かれている内容ともども目を瞠りました。タイトルからして小学生が思いつくものではありません。家の間取りまできれいに描かれていて、黒岩さんの几帳面さが伝わってきました。多くの方が魅入られるように読んでいたのも当然でしょう。

強く印象に残ったのは大学生になられた時に書かれた断章のようなものです。
ご自身の未熟さを自覚しながらも、奥底から湧き上がってくる「書く」ことへの切迫した、熱き思いが感じられました。
そこには「私の頭に浮かぶ未来の設計というのは、やはり作家になるということなのである」「私は人の心に触れるものを書きたい」「そうだ私は書かねばならない」という言葉が、力強い筆致で刻まれていました。

黒岩さんが生きていらっしゃったら、こういう貴重な資料のほとんどは見る機会もなかっただろう。そう思うと、「黒岩さんは逝かれてしまったのだな…」という実感が湧いてきて、言い知れぬ悲しみに襲われてしまいました。

膵臓癌におかされることがなかったとしても、黒岩さんという方は一切妥協せず、すべての精力を注ぎ、身を削るように書かれる方だったいう思いを強くしました。ほんとうに凄い方です。
それゆえ、「あなたは大切なことに背を向けていませんか。ほんとうにやりたいことをやっていますか」と問われているように思えてしまうのです。

会の終わり近く、高校時代からの大親友Hさんの歌とともに、スクリーンに黒岩さんの生涯を辿る写真が数多く映し出されました。
亡くなる前の時から幼小の頃へと徐々に遡り、そこからまた還ってくるかのように大人へと成長していく。これを見て胸を打たれない人はいないはずです。実際すすり泣きが会場のいたるところから聞こえてきました。

黒岩さんの著作とともに、黒岩さんが書評された本、或いは書評としてとりあげなかったまでも興味を持たれた本など、蔵書の一部がチャリティの一環として販売されました。売り上げは東日本大震災被災地義援金として、各自治体あるいは現地NPOなどに、寄付されるとのことです。
買いたいと思っていた書評本は既に売れてしまっていたので、それ以外の本を購入。

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『精神分析と美』には思わず目を引かれました。『川の地図辞典 多摩東部編』は工作舎・石原さんのお勧めで購入。

●2010年6月26日「作家・黒岩比佐子が魅せられた明治の愛しき雑書たち 日露戦争・独歩・弦斎」スペシャル・トークセッション
●2010年11月14日「『パンとペン』出版記念講演会」
特別映像として<編集者が語る黒岩比佐子>付

どちららも聞きに行ったものなので迷わず上記2枚組DVDも購入。
特典として黒岩さんの描いた絵ハガキをつけてもらいました。

帰りに戴いたお土産も嬉しい。
黒岩さんの遺稿となった西日本新聞掲載の「歴史と人間を描く」と、2006年5月から8月にかけて日刊ゲンダイに掲載された「ようこそ古書の森に!」のコピーに加え、黒岩さんの講演「食育のススメ─現代に通じる明治人の知恵」が収められた「お茶の水図書館設立60周年記念講演記録」。
歌人穂村弘氏との対談「読書の楽しみ」も載っている。

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読売新聞で同時期に書評委員をされていた松山巌さん、井上孝治さんのご長男、井上一さん、黒岩さんの弟さん、黒岩さんの著書『「食道楽」の人 村井弦斎』を担当された元岩波書店の編集者Hさんの話もあり、盛りだくさんの内容でした。

最後になってしまいましたが、発起人、事務局、スタッフの方々、このような機会を設けていただき、ほんとうにありがとうございました。
また、当日あらゆるところに気を配られ、会を支えられていた工作舎の石原さん、おつかれさまでした。黒岩さんのことではいつも何かとお心遣いいただき、感謝しております。

久しぶりの神保町、学士会館を後にした時には雨足が強くなっていた。
本屋など一軒も開いていない時間なのに、そのまま帰る気持ちになれず1時間以上もふらふらしてしまった。

パラソルではなく、雨傘の下でもいいから比佐子先輩と高校時代の話ができたら…などと決して叶わぬことを夢見るなんて、感傷的過ぎるだろうか。

〔参考〕

闘病中の比佐子さんに、「一番気持ちに寄り添ってくれます」と言っていただいたCDはこちらです。

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ラインベルガー『ヴァイオリンとオルガンのための作品集』 NAXOS 8.557383

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コメント

風太郎様
すばらしいご報告、ありがとうございました!

投稿: 石原 | 2011年11月18日 (金曜日) 17:55

どうしても都合で行くことができませんでした。「語り継ぐ会」の様子がわかって感激です。ありがとうございます。

投稿: 北方人 | 2011年11月18日 (金曜日) 20:34

会のご報告がきちんとできないまま日々が過ぎていきます。
ぶしつけなご案内にもご出席いただき、また心のこもったレポートをありがとうございます。古書の森日記にこのブログの存在をご案内させていただきました。
比佐子さんは私たちの中に生き続けることを信じています。「古書の森日記」がその一助となれば、と改めて思っています。

投稿: ご近所同期 | 2011年11月18日 (金曜日) 22:21

工作舎 石原様

コメントありがとうございます。
石原さんが編集を担当された(我が家の宝)『古書の森逍遥』(工作舎)は、石原さんでなければ決して生まれなかった作品だと思っておりますし、亡くなるまで石原さんがそばにいらして、比佐子さんはさぞ心強く思っていらっしゃったのではないでしょうか。
黒岩さん没後のピーマンTVにおける「本の現場シリーズ」も、比佐子さんを知るうえでは貴重な番組で、これもまた石原さんあっての企画と感謝しております。

この2年近くほんとうにおつかれさまでした。

投稿: 風太郎 | 2011年11月19日 (土曜日) 10:02

北方人さん

北方人さんをはじめ、故あって当日会場に来られなかった方々の中には、私などよりはるかに比佐子さんに近しい方が多くいらっしゃったと思います。
この会のことをご存じなかった方も含め、それぞれが抱く思いは間違いなく比佐子さんに伝わっていたと、私は思います。

北方人さんが神奈川県医師会報に寄稿された「あるノンフィクション作家の闘病記」。今も時折読ませていただいております。
また黒岩さんとのエピソード、お聞かせ下さい。

投稿: 風太郎 | 2011年11月19日 (土曜日) 10:05

ご近所同期さま

拙いレポートをご紹介いただくなど思いもよりませんでした。適任とは思えず恐縮しております。

あの展示品の数々、映像・写真関連の編集など、準備のご苦労はたいへんなものであったと想像いたします。最後の記念撮影の際、宮崎さんがほぼ二日間徹夜だったと伺い、胸が熱くなりました。
ブログ「古書の森日記」は、入手しにくい資料、これまで聞いたことのないエピソード満載で、多くの方々が楽しみにしていらっしゃると思います。管理、代筆たいへんかと存じますが、これからも続けていただけたら嬉しいです。
黒岩さんの世界へ入っていける大きな入口であり、心の中に生き続ける黒岩さんに会える大切な場所でもあると思いますので。これからもよろしくお願いいたします。

会へのご案内いただき、ほんとうにありがとうございました。
さぞかしお疲れだと思います。どうかご自愛ください。

投稿: 風太郎 | 2011年11月19日 (土曜日) 10:06

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