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「第9回 鬼子母神通り みちくさ市」 回顧 (2)

3ヶ月経ってしまいましたが、昨年11月にと<みきち屋>として出店した「第9回 鬼子母神通り みちくさ市」の回顧その(2)になります。

■庄野潤三『文学交友録』(新潮文庫)
■岩田靖夫『よく生きる』(ちくま新書) ほか3冊

年輩の男性に購入いただく。岩田靖夫『よく生きる』が引き取ってもらえるか否かは気に掛かっていた。同著者による『ヨーロッパ思想入門』は、岩波ジュニア新書として出ているからといって決して軽んじることはできない名著だと思う。『よく生きる』(ちくま新書)は、タイトルこそ人生論かと思わせかねない難を抱えているが、中身はしっかりとしたものだ。
ここでもギリシア哲学、キリスト教思想をベースにした思考がめぐらされており、就中レヴィナスの「他者」論には目を開かされた。
ジョン・ロールズ、ロバート・ノージック、チャールズ・テイラーらに触れ、国家論を展開しているところは20頁ほどだったので、もっと書いて欲しかったという印象は拭えない。しかし、今流行の正義と善、リベラリズムとコミュニタリアニズムという対立枠に絞らず平易に語っている文章は光っている。

■イエイツ『幻想録』(ちくま学芸文庫)
■北川透『荒地論 戦後詩の生成と変容』(思潮社)
いつも笑顔で、必ず2回足を運んでくださるYさん。春の一箱で笠井潔『テロルの現象学』を買っていただき、そこから購入される本の予測がつかなくなってしまいました。
笠井潔は昔ほど面白くないというYさん。そういうところも確かにあるなあ。実際、矢吹駆の登場しない『青銅の悲劇 瀕死の王』(講談社)は期待外れだった。『例外社会』(朝日新聞出版)は購入したもののまだ手つかず。
矢吹駆シリーズは2作分発表を終えているみたいだが、推敲、書き直しにすごく時間をかける作家だから、出版はいつになるのか。これは期待したい。
Yさん、他を見て回ってからいつも通り戻って来られ、2冊追加購入してくれました。

■木山捷平『耳学問・尋三の春』(旺文社文庫)
■パステルナーク『ドクトル・ジバゴ 上・下』(新潮文庫)

当店で一番若い常連のお客様。なんといっても高校生ですから。これで<とみきち屋>が参加した7回すべて購入いただいたことになる。ありがたいことです。
「木山捷平とは渋い」などという感想は、もうこの方には似合わない。それくらいの読書家(だと思えるのです)。
しかし『ドクトル・ジバゴ』には驚きました。映画でさえ観る若者はほとんどいないのではないか。
パステルナークといえば、荒川洋治が昨年刊行された『リュヴェルスの少女時代』(未知谷)を推奨しているので読んでみたいと思いながら未読。
『考える人 紀行文学を読もう』(2011年冬号・新潮社)の中の<私の好きな旅の本ベスト3>でも同書を入れていますね。荒川さんは「散文と散文詩を行き来する作者の旅」と評している。

高校同級のIが息子さんを連れて来てくれた。わりあい近くに住んでいることは、30年振りの同窓会で知った。I本人はうちが出している類の本は読まないようで、中学生の息子さんに「何かお薦めはないか?」と訊かれる。
これには困った。中学生向けの本あったかなあ…。それで息子さんに「どんな本読んでるの?」と尋ねてみた。
「打海文三が好きです」
「?!」
「『裸者と裸者』『愚者と愚者』も好きで、シリーズは全部読んでます」
「おじさんは『ハルビンカフェ』までしか読んでないなあ。3年前に亡くなられたね」
「そう、残念です。もう読めないから」

中学生の口から打海文三の名前が出てくるなんて予想だにしなかった。
タイトルに引かれ『時には懺悔を』(角川書店)を読んだのは15年も前。
二分脊椎症、水頭症を患い、医者からは「生きているのが奇跡」と言われるほどの障害を持った子どもをめぐり、事件に関わる者たちが思いをめぐらせるという重いテーマの作品だった。障害児は、それぞれの人間の鏡となり、問いを投げかけてくる。
みちくさ市後に角川文庫で読み返した(3回目かな・・・)が、やはりぐっと来る。
贅肉を削ぎ落とされたような文章に物足りなさを感じるかも知れないが、深く美しい。
「みんなが○○を励ましているかのようですね」という一人の言葉に、もう一人の男がこう答える。
「逆だよ」「みんなが○○に励まされているんだ。声をかけている本人もそれをわかっているさ」
(○○は障害をもった子の名前)
障害を持った子の父親であった著者の表現だけに、いっそうの重みを感じる。

Iの息子さんにまた会える機会があった時に、どんな本を紹介すればいいかと悩むのも、楽しいものだ。

開店前に声をかけてくださった年輩のご婦人が、約束通りいらして、佐野洋子『問題があります』を購入してくださいました。嬉しいことです。後から知ったのですが、既にお持ちだったとのこと。
私は今も2冊持っていますが、どうされたかなあと思ったりしています。

母の入院もあって、(2010年)4月29日以来、久しぶりの古本市参加でしたが、多くの方にお越しいただき、おかげさまで132冊の本が旅立っていきました。ありがとうございます。
持ち込んだのは約180冊、平均単価は316円となりました。

佐野洋子さんの追悼特集は27冊中25冊引き取っていただき嬉しい限りです。改めて佐野さんの人気を、そしてその死を惜しむ方が多いのを肌で感じました。
これからも、佐野さんの作品は出品していきたいと思います。

エピソードで触れた以外で、お買い上げいただいた本の一部を最後に紹介します。

■海野弘『本を旅する』(ポプラ社)
■『稲垣足穂の世界 タルホスコープ』(平凡社)
■小田実・安岡章太郎『大逃走論』(毎日新聞社)
■『KAWADE夢ムック 三島由起夫』(河出書房新社)
■富岡多恵子『中勘助の恋』(平凡社ライブラリー)
■正宗白鳥『自然主義文学盛衰史』(講談社文芸文庫)
■大西巨人『五里霧』(講談社文芸文庫)
■浅見淵『燈火頬杖』(ウェッジ文庫)
■日下三蔵編『水谷準集 おそれ・みお』(ちくま文庫)
■内田百閒『芥川龍之介雑記帖』(河出文庫)
カートをひいた70代と思われる女性に購入いただく。
■ルドルフ・ヘス『アウシュヴィッツ収容所』(講談社学術文庫)
■トロツキー『ニーチェからスターリンへ』(光文社古典新訳文庫)
■アラン・ロブ・グリエ『快楽の館』(河出文庫)
■堀口大學訳『月下の一群』(新潮文庫)
■山口昌男『学問の春』(平凡社新書)
■ブルトン『ナジャ』(白水Uブックス)
3歳くらいのお嬢さんを連れた女性に購入いただく。
■ジュリアン・グラック『アルゴールの城にて』(白水Uブックス)

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コメント

野外劇団 楽市楽座 特設サイト管理人の井上と申します。昨年は「鏡池物語」公演につきまして、ブログ記事でご紹介を頂き、ありがとうございました。皆様のご支援をもちまして、初の全国旅公演を無事に終了することができました。
野外劇団 楽市楽座は今年も親子3人で全国旅公演を行います。4月中旬からの公演開始を前に、ホームページを一新いたしました。新しいURLは、http://www.yagai-rakuichi.com です。ぜひご覧頂きたくお願い申し上げます。
今年の旅公演は、新作「ツバメ恋唄」と、昨年ご好評を頂戴した「鏡池物語」を上演いたします。今年も皆さまとお会いできることを心より楽しみにしております。
最後になりましたが、ブログ記事とは直接関連のない書き込みとなりましたことをお許し下さい。

投稿: 井上久史 | 2011年3月 4日 (金曜日) 10:00

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