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黒岩比佐子さん 永眠  「いつかパラソルの下で…」

11月17日。母と義母二人が入院している病院からようやく義母が退院できることになったので、朝から付き添い、妻の実家へと送り届けた。2ヶ月ぶりに自宅に帰れた義母らと夜の食事を共にし、車で帰宅。運転中で気がつかなかったが一通のメールが届いていた。
高校同期Yさんが黒岩比佐子さんの訃報を伝えてくれた。

どうして?と、言うに言われぬ思いに囚われた。
緩和ケアを選ばれ、15日に転院されたばかりなのに…。
「あ~。やっと出られる。ふつうの暮らしができるようになりたいな」
ブログに書かれていた転院時の黒岩さんの言葉が胸に突き刺さる。

何としても産み出したいという一念で抗ガン剤治療に耐え、6月に『古書の森 逍遥-明治・大正・昭和の愛しき雑書たち』(工作舎)、10月には『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』(講談社)を世に送り出された黒岩さん。
ようやく辛く苦しい治療から解放されたのに、余りにも早過ぎる。

17日の夜から何度もバッハの『マタイ受難曲』を聴いています。
黒岩さんご本人から、執筆時には無音の方が集中できるけれど、読書の際はクラシックばかり聴き、『マタイ受難曲』はよく聴いていると、うかがっていたからです。

何もできずただただ祈るしか他に術が無く、せめて闘病中の黒岩さんのお気持ちがわずかでも安らいでくれたらと、ビクトリア『エレミア哀歌』、ラインベルガー『ヴァイオリンとオルガンのための作品集』などのCDをお渡ししました。
「どの音楽も癒されます。今はラインベルガーが一番気持ちに寄り添ってくれます」と云っていただいた時に、『マタイ受難曲』のことを聞かせていただいたのです。

黒岩さんと比べるべくもありませんが、5年以上前、心身ともにどん底に近い状態の時にコルボ指揮によるマタイを実演で聴き、初めてコンサート会場で涙が流れて来ました。
信仰を持ち合わせぬ者にさえ、魂を慰撫されるが如く、深い安寧をもたらしてくれたのです。

黒岩さんはどんな思いでマタイを何度も聴かれていたのだろうか…。
それを想像しながら聴いていると、コラール「私がいつの日かこの世から去るとき」のところでこみ上げるものを抑えられなくなっていました。

黒岩さんとお話しさせていただくようになったのは昨年の春。それからまだ一年半しか経っていません。この間、黒岩さんの存在は私の中でどんどん大きくなっていきました。

特に同じ高校の一年先輩と判り、同じく黒岩さんと同じ高校の後輩である私の妻も含め三人で、高校の話をしましょうと云っていただいてからは、それまでとは違った感情も芽生えるようになっていました。

昨春、厳しい闘病の中「一箱古本市」の会場に二日間来られた黒岩さんとお話した際にも、今とりかかっている2冊の本が出て落ち着いたら、お茶を飲みながら高校のことをという話になりました。その日は熱い日差しが照りつけていたので、「お身体にさわるから、パラソルでもあったらいいのですが…」と私たちが恐縮したこともあって、今度三人で話をするときにはパラソルの下でしましょうということになったのです。
もう、この世で叶うことはありません。

年齢が近い、(同じ高校出身とは知らないときに)「一箱」で黒岩さんから賞をいただいたことも確かに黒岩さんとの距離を縮めてくれました。
でも何より、特異な高校だっただけに、同じ空気を吸い、共にスポーツ部だったことが大きかったと思います。
そうでなければ、憧れと尊敬の念を抱きつつ、遠くから見ているだけだったに違いないのです。
メールを交わさせていただくことなどあり得なかった。
多くのファンを持ち、高名なライターでいらっしゃるのだから。

黒岩さんに出逢えたこと、嬉しく思っています。
黒岩さんでなければ決して書くことの出来ない素敵な書物を残していただいたこと、
大きな喜びです。
そして、高校後輩として黒岩比佐子さんのことを誇りに思います。
多くのものを授けていただき、ほんとうにありがとうございました。

もっと書きたいことがあるはずなのに、これ以上は言葉になりません。
苦しみも、痛みもない世界へ旅立たれた。
それだけがせめてもの救いに思えてなりません。
どうか安らかにお眠りください。
祈りをこめて。

黒岩さんの最期までを代筆され、その後もいろいろとお知らせをしていただいている、ご近所同期の方々へ、この場を借りて御礼申し上げます。
一番身近で黒岩さんを支えられたのですから、その悲しみは私などの想像の及ばないものがあるかと思います。

今晩(11月20日)19時から緊急追悼番組「黒岩比佐子さんとの日々」がUSTREAM配信されます。

こちら→ http://p-man.tv

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コメント

風太郎様

黒岩比佐子さんの古書の森日記番人の宮崎と申します。
このブログを拝見して、黒岩さんの10月の講演会DVD編集にあたってラインベルガー『ヴァイオリンとオルガンのための作品集』から曲を選定しました。

「語り継ぐ 黒岩比佐子の会」ご案内は届きましたか?
多分、介護があるのでご出席はかなわない、とのお返事を下さったのは風太郎様でしょうか。
もし届いていないようでしたらお知らせください。

投稿: 古書の森日記代筆のご近所同期 | 2011年10月20日 (木曜日) 16:03

古書の森日記の代筆をされている宮崎様

感謝の念を抱きながら、いつも「古書の森日記」を拝読させていただいております。
知ることのできなかった黒岩さんの仕事のに触れられるのは、未だに比佐子さんがこの世にいないとは思えない私にとって望外の喜びあり、大きな支えになっています。
ほんとうにありがとうございます。

また、講演会DVDの中で、比佐子さんに差し上げたラインベルガー『ヴァイオリンとオルガンのための作品集』の音楽を使っていただくなんて……
今のこの気持ちを表現する言葉が見つかりません。

「語り継ぐ 黒岩比佐子の会」のご案内はまだ頂戴しておりませんが、ぜひ出席させていただきたいと思います。
よろしくお願い申し上げます。

投稿: 風太郎 | 2011年10月21日 (金曜日) 01:13

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