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2010年10月

黒岩比佐子さんと堺利彦 『パンとペン』刊行記念講演会

10月16日、『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』(講談社)の刊行記念として行われた著者・黒岩比佐子さんの講演を聴きに行った。場所は東京堂書店本店。

立ち見を含む100人を越す人々が黒岩さんの一言一句に、耳を傾けた。

大逆事件で絞首刑にされた幸徳秋水、関東大震災後虐殺された大杉栄らの影で埋もれがちだった堺利彦のこれまで知られることなかった魅力を引き出し、社会主義運動史における堺の存在をきちんと位置づける講演はとても充実していた。
また、3年半の年月をかけて書き上げた著書のことを、著者自らの言葉で聴けたことは私にとって貴重であり、望外の喜びでもあった。

1910年から1919年までの社会主義運動冬の時代にあって、「売文社」がどのような役割を担ったのか。そして弾圧の続く中、堺が官憲の目を眩ましながらいかに自らの思想を貫いたのか、明解に伝えられた。

堺はパンのためにペンを使うと明言する一方で、パンを求めるためではないペンもふるうと宣言し、有意なそして世間を楽しませる出版物を送り出していった。
現在の編集プロダクションの先駆的なものであり、外国語翻訳会社でもあった文筆代理業「売文社」のことは序章において次のように語られている。

官憲の弾圧を耐え忍ぶ社会主義者たちの数少ない拠点であり、生計を立てるための組織であり、同志たちの貴重な交流の場であり、若者たちの教育の場でもあった。堺利彦は同志たちを支えるために「売文社」をつくったのだった。

講演では多くの興味深いエピソードも語られたが、その紹介は差し控えたい。
是非本を読んで味わってみてください。

そこで、当日印象に残ったことを三つほど。

自らを棄石埋草と称した堺が、自分たちの社会主義運動は道楽と思われるかもしれないが、「命懸けの道楽」と語ったということ。ここに堺の矜持が見られる。

執筆の過程で、大逆事件において絞首刑にあった者たちが夢に出てきてうなされたという話。
これまでにも大逆事件、大杉栄の虐殺、戦争について様々なところで語ってきた黒岩さんだが、その根底にはいつも、国家権力による理不尽で、惨い弾圧に対する憤り。そしてそういう世を招いてはならないという強い願いが感じられる。

講演の最後、黒岩さんがご自身を堺の代名詞とも云える「楽天囚人」になぞらえ、想いを伝えようとした際言葉を詰まらせた。その瞬間、会場中の人々が固唾を呑んで次の言葉を待った。
涙声で絞り出されたのが次の言葉でした。
「これから頑張って乗り切っていきたいと思います」

昨年暮れからの膵臓癌との過酷な闘病のなかで、精魂込めて産み出された著書への想いが痛いほど伝わってきた。
その時の会場の反応は詳しく書くまでもないでしょう。
あんなに温かい拍手に包まれたのは、ほんとうに久々のことでした。

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雨の「秋も一箱古本市2010」 (2)

ライオンズガーデンを後にしてすぐ近くの大円寺へ。境内中央はブルーシートの屋根に覆われていた。箱に直接かかってはいなかったが、店を出している辺りの頭上からは水が落ちて来ていて、バケツで水滴を拾っている。立ちっぱなしでの応対も含め、ここは特にたいへんだなと思えた。

<やまがら姉弟文庫>のYさん、Kさん、<ドンベーブックス>ご夫妻にご挨拶。ドンベーさんは今話題の人やものに関する本を遊び心たっぷりに出品されていた。もちろん、メインはいつものように渋い本。
渡辺英綱『新宿ゴールデン街』(晶文社)を購入。ドンベーさんが著者と飲んだ時の面白いエピソードを聞かせてもらう。

<古書赤いドリル>さん、店名に入っている「赤」を象徴する硬派な本に痺れた。このテイスト、好きな者にはたまらない。箱を見た瞬間、云いようのない懐かしさが湧いてくる。そうか、1970年代か、と納得。
鈴木亜繪美『火群のゆくへ 元楯の会会員たちの心の軌跡』(柏艪舎)を購入。
三島由紀夫、森田必勝に残された彼らの声を聞いてみたいという思いもあったが、〔菅原文太と歩く「内ゲバ」の一九七〇年代〕という掲げられていたテーマの中に、三島の自決を入れている視点に共感を覚える。

本購入時に目録をいただく。帰りの電車の中で一気に読み終えてしまったのだが、これが半端じゃない。単なる出品目録ではなく、70年代のクロニクルになっている。しかも、そこに菅原文太主演の映画をからませ、ストーリーを展開しているのだから驚いた。
目録の最後は小嵐九八郎『蜂起には至らず 新左翼死人列伝』(現・在講談社文庫)の、中原一に触れた文章からの引用で締められているのだが、この本、7年前に単行本が刊行されて以来、何度も読んでいるだけに、強く印象に残った。
<古書 赤いドリル>さんは春の一箱に参加後、下北沢に店舗を構えられたと聞いている。ある意味、今回の一箱に素人として参加している店とは違って当然。しかし、プロならではの凄さを堪能させてもらい、清々しくさえ感じた。

時は既に3時半。全部は廻れないだろうなと思ってはいたが、この時点で諦める。さてどうしよう。
往来堂書店から古書ほうろうに行くか、古書信天翁から古書ほうろうに行くか迷ったが、信天翁にはまだ行ったことがなかったので後者を選択。

谷中ぎんざを抜け、だんだん坂を上ると右側のビルの2階に灯りが点っている。店内に足を踏み入れると鮮やかな本の世界が拡がっていた。ほんとうなら、お店そのものをじっくり見たいところだが、時間がないので出店者の箱に集中。雨の中なのにお客さんも多く、各箱が店の中に溶け込んでいて不思議な空間になっている。

<カリプソ文庫>のTさんにご挨拶。ご本人も「恵まれています」と云っていたが、確かに雨が凌げ、寒くなく、お客さんも他に比べれば多い。
カリプソさんの箱は村上春樹新訳のチャンドラー『ロング・グッドバイ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)が安価で出されているかと思うと、おっと唸ってしまうような古本も混じっていて、惹きつけられた。
川西政明『評伝 高橋和巳』(講談社文芸文庫)を購入。
<オヨヨ書林>さんにお会いできなかったのは残念。

道はおおよそ分かるので、傘をさしていると邪魔なためMAPをカバンの中にしまって置いたのが失敗。すぐお隣の谷中松野屋さんが大家さんになっていることに後から気付く。それで、店を出るとコシヅカハムへ向かってしまった。

ここにも春の一箱参加後に雑司ヶ谷に古本屋を開いたお店が参加している。<JUNGLE BOOKS>さんだ。テーマはタイトル買いも含めた「ジャケ買い」。難しいテーマに挑戦されたなあと思う。しかも今回のような雨の中では見映えが殺がれてしまう。それでも、考えられた本が多数並んでいた。
<JUNGLE BOOKS>ファンの一人としては、奥様のYさんだけではなく、ご主人Kさん選定の本ももっと見たかったというのが正直な感想。
配られていた(3回目となる)「ジャングル通信」は、Yさんの手書きと表現に独特の味わいがあって、楽しませていただいた。

お隣の<文庫善哉>さんに、森本哲郎『ぼくの旅の手帖―または、珈琲のある風景』(ダイヤモンド社)があったので懐かしさから思わず手に取ってしまう。森本哲郎は若い頃新刊が出る度に買って読んだ。中でも『ことばへの旅』シリーズが好きで、いまだに愛読書として時折読み返している。ウィトゲンシュタインを知ったのもこの本。
「ほかに森本哲郎の本はないですか?」とお尋ねしたが、残念ながらないとのこと。しかし、森本哲郎の本は古本市でこれまで見たことがなかったので嬉しかったな。(森本哲郎は森本毅郎の兄)

コシヅカハムを後にした時にはもう午後4時を若干回っていた。焦る。古書ほうろうさんへ。まずはほうろうの宮地さん、ミカコさんご夫妻にご挨拶。読み応えたっぷりの「ほうろうつうしん」を頂戴する。

親しくしている<もす文庫>さんが出店されているのでここを外すわけにはいかない。会えるのは年2回だけ、しかも、遠く郡山から来られるのだから。
今回はかなり売れたとのことでmasubonさんの表情も明るい。ブログで積極的に発信しているし、拘りをもって本を出されているからなあ。加えてバッジや写真など様々な工夫をされて、確実にリピーターを増やしている。ご主人が描かれた看板も毎回インパクトがある。
なんだか、こちらまで嬉しくなってしまった。

『オリンポスの果実』のことをきっかけに田中英光、田中光二親子の話をしばし。いつお話ししてもmasubonさんの感性は面白いなあと思う。
「もす通信」第2号とままどおる(お菓子)を頂戴する。

古書ほうろうにはお馴染み塩山さんの<嫌気箱>、<朝霞書林>さんも箱を出されていた。塩山さんの箱は「おおっ」と云うような本がずらり。<朝霞書林>さんも、いつものようにはいかないがマメに本を入れ替え、並び替え、売れていたご様子。
タイムアップ直前に見た<よみますよみます書房>さんの箱がとても気になったものの時既に遅し。もっと見たかった。

ということで、往来堂書店さんには行けず。<岡崎武志堂>の岡崎さん、ごめんなさ~い。岡崎さんにはみちくさ市でもお会いできるからと思ってしまいました。

一日雨が降り止まない「一箱古本市」、実行委員、助っ人、店主の方々ほんとうにお疲れさまでした。撤収の頃にはかなり強い雨足、たいへんだったと思います。
雨の中とはいえ、半日楽しませていただきました。

一箱を堪能し、午後6時前、病院に到着。母も義母もわたしたちが<とみきち屋>で古本市に参加した時の話をいつも楽しそうに聞いてくれる。
今回は出ずに、見て回ったんだよと簡単に報告。
母の「偵察に行ったの?」には思わず笑ってしまった。
「ちがうちがう。知り合いの方が何人も出ているからだよ」と伝えたが、今ひとつピンと来ないようだ。入院が一ヶ月半続いているのだから無理もないか。

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雨の「秋も一箱古本市2010」 (1)

前夜あまり眠れずに朝7時過ぎ目覚めると、雨がしとしと降っていた。思いなしか肌寒い。HPで確認したところ「秋も一箱古本市2010」は雨天ながら開催となっている。翌日はさらに強く降る可能性もあったので苦渋の判断に思えた。
屋外の古本市に雨は大敵である。濡れたら傷む。客も傘を差しての買い物を躊躇する。
皆さん今日一日たいへんだろうなと思え、こちらまで鬱々とした気分に囚われてしまった。

入院中の母も退院の目処は立たないが、足の腫れを除き少しずつ快復へ向かっているように感じられる。母に続き、腸閉塞で同じ病院の同室に入院した義母も、19日予定の手術まで飲食は一切できないものの、容態が急変する怖れは無さそうだ。
朝から仕事の妻を駅まで送り、帰宅後所用をすませてから会場に向かう。

午後1時頃根津駅到着。雨は小降りになっていたので少しほっとする。
しかし、いつもと様子は全く違う。町歩きを楽しむ人々の姿がほとんど見られず不安が過ぎる。

まずは宗善寺へ。一昨年<とみきち屋>として初めて参加し、ナンダロウさんに賞をもらった思い出の場所だ。境内に足を踏み入れた途端懐かしさがこみ上げてくる。

正面の本堂(?)の軒先に箱が並んでいる。近づいていくと右端に<つん堂>さんが箱を出していた。「人も来ないし、寒いし。これまでで一番厳しいかも…」とつん堂さん。
野呂邦蜴の書簡集、田中小実昌、竹中労ほか好みのいい本が箱に残っているのは寂しい。

古本の価格が全般的に安くなってきている。その中で高くはないにしても、そこそこの値段をつけていると売れにくい。(客側からすれば)自分の嗜好と合っている箱の本は、所有本と重なってしまう。同じ系統、全く同じ本が他店でも出品されている。
こんなことをつん堂さんと話し始めたが、やはりこの雨ではどうしようもないというところに落ち着く。
何やら只ならぬ空気を感じ隣を見ると、ナンダロウ(南陀楼綾繁)さんがいらっしゃる。

妻・とみきちが構成を担当し、先般刊行された淵邊善彦『企業買収の裏側 M&A入門』(新潮新書)について尋ねられた。どうしてご存知なのかと一瞬思ったが、広くアンテナを張っているのだから不思議ではないか。
本の最後にあまり見ぬ「構成」とクレジットが入っていたのに興味を持たれたよう。どんな作業をしたのか、編集者が内田樹の担当でもあること、新書が出来上がるまでを経験でき、いろいろ勉強になったことなどお話しする。

お隣は春の一箱で、その見事な手作りの箱と品揃え、さらにチラリズムバッグで「岡崎武志賞」を受賞された<とり、本屋さんををする>が出店されていたので、つん堂さんも交えてお話。とりさん(ご主人)は私が親しくしている<もす文庫>のmasubonさんと大学の同期。世間は意外と狭いと云われるが古本界はそれ以上だ。
とりさんの箱にあった『Santa Fe 宮沢りえ』は目立ってましたねえ。
<つん堂>さんから、竹中労『エライ人を斬る』(三一書房)を購入。
私が好んで読む今東光をぶった斬っているのだが、妙に説得力があって面白い。

<どすこいフェスティバル>さんは、雨の中だというのにシンボルマークの着物姿。たいへんだったと思います。東大クイズに挑戦したが2問とも不正解。50円引きを逃し残念。
<北方人>さん、雨を考慮して本の数を控えたとのこと。「今日はあんまりないよ~」「ほんと人が来ないよ」と云いながら、変わらぬ笑顔。体調も一時期より良くなられたと聞けてよかった。
市倉宏祐『ハイデガーとサルトルと詩人たち』(NHKブックス)を購入。

<たけうま書房>さんに伺うも、ご主人はお出かけ中。奥様にご挨拶。男性、女性用に分けた温泉特集が面白い。たけうまさんが出品されるCDの素晴らしさはつとに有名。

宗善寺ではdozoさんに遭遇。みちくさではお会いできなかったので嬉しかったなぁ。立原道造の話をしばしさせていただく。今まで思いも寄らなかった詩人の捉え方をdozoさんに教わった。
<とみきち屋>によく来て頂くYさんともばったり。「今日はどうですか?」と尋ねると「今ひとつですね」と返ってきたが、やはり古本めぐりは楽しそう。
古本イベントの多くが、こういう本好きの方々に支えられていることを実感する。

続いてライオンズガーデン谷中三崎坂へ。ここはもともと屋根の下なので宗善寺に比べればやや条件はいいが、雨足が強くなれば吹き込んでくる。この雨では、恵まれているとは云えないだろう。

まずは<四谷書房>さんご夫妻にご挨拶。すぐ近くから谷中まつりの賑やかな声が聞こえてくるものの、本目当ての方は他と同様少なく、厳しいご様子。
ぱっと見、人が多くいるように感じるが、15箱出ているので関係者を除けばお客さんが多いとは云えない。
お隣<駄々猫舎>さんの「ヨウコ」本100冊特集は圧巻。蔵書の中からとはいえ、その発想が素晴らしいし、すべて読んだ本というのがすごい!
多和田葉子完売したらしい。根強いファンがいるのだな。文庫も少なく、品切れ本も多いようだから、探している方はさぞや嬉しかったことだろう。
私は佐野洋子で大満足。『おじさんのかさ』『天使のとき』『ほんの豚ですが』を購入。3時間経過していなければ、3冊購入は躊躇ったと思う。「何冊でも持っていたい」と同時に、「多くの人に読んでもらいたい」という気持ちがあるから。
<モンガ堂>さんの計画が実現したら、いずれ佐野洋子のコラボやりたいねえと駄々猫さんと二人で勝手に盛り上がってしまった。
ご主人・ちゅうたさんが本格的に出品されるのを心待ちしているのだけれど、いつになるのかしら。

モンガさんは今回<やっぱり本を読む人々>のお一人として参加されていた。けっこう寒かったので、膝には応えたのではないだろうか。古本関連のイベントにモンガさんがいない方が珍しいと思われるほどの方。しかも毎日のようにすごい本を購入されている。そのモンガさんが本格始動されたらすごいだろうなと楽しみでならない。

モンガさんが早速「秋も一箱古本市」のリンク集をつくってくれました。
こちら→ http://d.hatena.ne.jp/mongabook/20101010/p1    

<古書わらし>はPippoさんの双子の姉妹の妹・わらしちゃんのお店と聞いていたが、どう見てもPippoさんとしか思えない(笑)
P-waveの「古本ざしきわらしが行く」( http://pippo-t.jp/newpage26.html )に出てくるわらしちゃんほどぶっ飛んでいなかったし。
荒地ほか詩に関する本格本が出品されていた。詩に関して初心者の域を出ない私にはちょっと手が出にくい。それで、サルトル/メルロ=ポンティ『往復書簡 決裂の証言』(みすず書房)を購入。こういう本も読まれているところが不思議な魅力。

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