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こんな本を(1) 2010年5~8月

古書蒐集の趣味はなく、5~8月の4ヶ月の間に購入した本の9割近くがブックオフ。珍しい本はない。
しかし、読みたいと思っていた本、思わぬ本にも出会えたばかりか、本全品半額、単行本半額、単行本500円均一セールなどを計7回くらい利用でき、恩恵にも与った。また、平日仕事帰り、閉店間際20分ほどの日参も後押ししてくれた。

■ヘーゲル『精神現象学』(長谷川宏訳・作品社) 105円

学生時、河出書房から出ていた『世界の大思想12 ヘーゲル 精神現象学』(樫山欽四郎訳)で挑戦するも「理性」あたりで沈没。
竹田青嗣・西研『完全読解 ヘーゲル 精神現象学』(講談社選書メチエ)を昨年読み、この6月、同著者たちの『超解読!ヘーゲル「精神現象学」』(講談社現代新書)を一気に読み終え、再挑戦する気持ちが湧き起こっていた。
何というタイミング。美本、半額2400円でもいいと思ってカゴに入れる。会計前念のために中をチェック。鉛筆による線引きが、特定部分10頁ほどに見つかる。全く問題ないが、ダメもとで交渉。あっさり105円に。
本の値段、価値って何?と考えると、喜んでばかりもいられないというのが正直なところだ。

■ラ・ロシェフコオ『箴言と考察』(内藤濯訳・グラフ社) 105円

愛読した岩波文庫版はボロボロ。加えてはるか前に絶版。やむなく二宮フサ訳を購入するも、馴染めなかった。状態のいい内藤濯訳を探し続けたもののついぞ巡り逢えず。
ややくすんだ茶色の背表紙が105円棚にひっそりと収まっているのが目に止まった。こんな本が出ていたとは知らなかった。これも出逢いなのだろう。

■ヘッセ『若き人々へ』(角川文庫) 105円 読了

これもまた初めて見る本。手にとってパラパラとページをめくると、何とニーチェの『ツァラトゥストラ』、ドストエフスキーの『カラマゾフの兄弟』、『白痴』について書かれている。ドストエフスキー作品に対するヘッセの、畏怖にも近い感情が伝わってくる。

■結城信一『石榴抄』(新潮社) 読了

7月のみちくさ市で、モンガ堂さんから購入。
表題にもなっている「石榴抄」(せきりうせう)は惻々と胸に迫ってくる。著者が師と仰いだ会津八一。その八一に献身的に尽くした高橋きい子の最期に寄り添う八一の苦悩が切ない。
空襲ですべてを失い疎開。身を寄せた先でも、肺病患者のきい子を伴っているために篤くはもてなしてもらえず、ついには観音堂の庫裏の一室へと移ることを余儀なくされる。

八一はきい子の死を悼み三十七首の歌を詠んだ。以下はそのうちの三首(この本の中でもとりあげられている)。

いたづきのわれをまもるとかよわなる
ながうつせみをつくしたるらし

わがためにひとよのちからつくしたる
ながたまのをになかざらめやも

かなしみていづればのきのしげりばに
たまたまあかきせきりうのはな

※ いたづき・・・病  ひとよ・・・一生  たまのを(玉の緒)・・・命 

著者結城信一は最後に、八一の著書『南京新唱』から序を全文引いているのだが、その中から一部を紹介したい。

 もとよりかかる世のさまとて頼むべき人手も無く薬餌にも乏しきを看護に炊事に予みづから迂拙の力瘁(つく)したるも七月十日といふここにして白昼遂に眠に入れり
 きい子は平生学藝を尚び非理と不潔とを好まず絶命に臨みてなほ心境の明晴を失はざりしに時恰も交通のたよりあしく知りたる人の来たりて枕頭を訪ふもの殆ど無かりしかば予ひとり側にありて衷心の寂寞を想うてしきりに流涕をとどめかねたり
 やがて隣人に授けられて野外に送り荼毘に附し翌朝ひとり行きて骨を拾うて帰り来たりしも村寺の僧は軍役に徴せられて内に在らざるを以て雛尼を近里より請じ来るにその年やうやく十余わづかに経本をたどりて修證義の一章を読みて去れり

■谷川雁『原点が存在する 谷川雁詩文集』(講談社文芸文庫) 375円 読了

この春『谷川雁 詩人思想家復活』(河出書房新社)を読み、谷川雁の書物のほとんどを若い頃処分してしまったことを後悔していた。久しぶりに味わう谷川の文章、時に息が詰まるくらい濃密だ。
谷川を優れた組織者(オルガナイザー)と見なしていた吉本隆明は、『追悼私記』の中で谷川の姿勢を次のように表現している。

谷川雁が保った実践家の姿勢は、有効かどうかを第一義としなかったと思う。現実を文字どおり腕力で切り取って完結したひとつの世界にしてしまう実験が「実践」ということの意味だった。有効性など何ら誇るに足りない。それは時に応じ無効になったり、有害になったりするに決まっている。だが、切り取った現実をひとつの完結した世界にまで仕上げてしまえば、その有効性は崩壊するはずがない。これが谷川雁が生涯をかけて「実践」してやまなかったことだ。

■池澤夏樹『世界文学を読みほどく スタンダールからピンチョンまで』(新潮選書) 500円
池澤夏樹個人編集による世界文学全集(河出書房新社)が刊行中なので、読んでみようと思った。

■ソーントン・ワイルダー『わが町』(鳴海四郎訳・早川書房) 105円
かつて額田やえ子訳の単行本で読んだが、新訳によるこの文庫は魅力だ。

■ルソー『社会契約論/ジュネーブ草稿』(中山元訳・光文社古典新訳文庫) 225円
何と云ってもジュネーブ草稿が目玉。

■中井久夫『精神科医がものを書く時』(ちくま学芸文庫) 325円 読了
中井久夫、霜山徳爾、岩井寛、木村敏。この4人の精神科医の本はできる限り読みたいと思っている。

■椎根和『平凡パンチの三島由紀夫』(文春文庫) 105円 読了
これまで知らなかった三島像を描いていて面白い。三島に結婚式のスピーチまでしてもらった著者は、若き編集者としても三島に信頼されていたのだろう。解説は川本三郎。

■井伏鱒二『井伏鱒二対談集』(新潮文庫) 105円
■鶴見俊輔『思い出袋』(岩波新書) 200円 読了
■鶴見俊輔・上坂冬子『対論 異色昭和史』(PHP新書) 105円

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コメント

お久しぶりのコメントです。

ラ・ロシェフコオ『箴言と考察』(岩波文庫版)は、私の手持ち本もボロボロです。高校時代に父から「今読みなさい」と渡された本の1冊で、あまり再読の習慣がない私でも、何度も繰り返して読みました。その割には「箴言」の内容を覚えていないのだけど、時々他の書物やブログで「あれ?どこかで読んだ文章?」と思うことがあります。

とみきち屋のいない「みちくさ」「一箱」は少し淋しいですが、状況を鑑みれば当然と思います。
両親はまだ健在ですが、昨年の叔母の逝去で「覚悟はしていても、何とかもう少しだけでも・・・奇跡が起きて欲しい」という気持ち、「でも、苦しいのであれば、その状態を長引かせたくない」という気持ち、どちらもわかります。
お母上にとって、また家族の皆様にとって、最善の「お別れ」でありますよう、祈念しております。(回復の可能性もゼロではないのに、書き方が変ですみません、私自身が「死」は避けられないものとの自覚が強いため、失礼お赦し下さい)

投稿: 駄々猫 | 2010年9月18日 (土曜日) 00:38

駄々猫さま

駄々猫さんの気持ち、まっすぐに伝わってきました。
とても嬉しく思っています。
気にかけていただき、ありがとうございます。

今回のことで「死」は「生」とともにあるのだという思いを強くしました。

決して安堵はできず、新たな問題が生じてはいるものの、母のからだは少しずつではありますが、恢復の兆しを見せ始めています。

みちくさ市、ふらっと行くつもりです。
お会いできるのを楽しみにしています。

『箴言と考察』を高校生の娘さんに「今読みなさい」と渡されるお父様、すごいですね。

投稿: 風太郎 | 2010年9月19日 (日曜日) 02:52

風太郎さま

みちくさ、いらしたのですね。お会いできず残念でした。
一日何か足りないとずーっと思っていたのです。

勝手なことを申し上げて申し訳ありませんが、またお二人の笑顔にお会いできることを楽しみにしております。

投稿: dozo | 2010年9月20日 (月曜日) 00:45

dozoさま

母の状態も落ち着いて来たので、ぶらっと息抜きがてら足を運びました。
私もdozoさんにお会いできず残念でした。お店を廻る際、通りすがる人たちにも目を凝らしていたのですが…。

>一日何か足りないとずーっと思っていたのです。

そのように云って頂けるのは嬉しい限りです。
(古本市への)「カムバック楽しみに待っていますよ」と声をかけてくださる方もいて、<とみきち屋>を続けて来てよかったなと思います。

>勝手なことを申し上げて申し訳ありませんが、またお二人の笑顔にお会いできることを楽しみにしております。

ありがとうございます。
dozoさんの素敵なスマイルとまではいきませんが、みなさんと本を通じて笑顔でお話しできる日が必ずやってくるものと思っています。

投稿: 風太郎 | 2010年9月21日 (火曜日) 00:28

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