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『新書大賞2010』(中央公論新社) 〔1〕

昨年も当ブログで取り上げた新書大賞、今年もまた感想などを書いてみたい。
(2009年の記事は→こちら

『新書大賞2010』(中央公論新社)で選ばれた2009年発行、新書ベスト20(実質21冊)は以下のとおり。

1位(169点)  ①『日本辺境論』 内田樹(新潮新書)
2位(105点)  ②『差別と日本人』 野中広務・辛淑玉(角川oneテーマ21)
3位(90点)  ③『音楽の聴き方』 岡田暁生(中公新書)
4位(70点)  ④『戦後世界経済史』 猪木武徳(中公新書)
5位(68点)    ⑤『ノモンハン戦争』 田中克彦(岩波新書)
6位(50点)    ⑥『しがみつかない生き方』 香山リカ(幻冬舎新書)
          ⑦『ぼくらの頭脳の鍛え方』 立花隆・佐藤優(文春新書)
8位(49点)  ⑧『世界は分けてもわからない』 福岡伸一(講談社現代新書)
9位(37点)   ⑨『通勤電車でよむ詩集』 小池昌代編著(生活人新書)
          ⑩『日本の難点』 宮台真司(幻冬舎新書)
11位(34点)   ⑪『書くー言葉・文字・書』 石川九楊(中公新書)
          ⑫『多読術』 松岡正剛(ちくまプリマー新書)
         ⑬『ベーシック・インカム入門』 山森亮(光文社新書)
14位(32点)  ⑭『関係する女 所有する男』 斎藤環(講談社現代新書)
          ⑮『コミュニティを問いなおす』 広井良典(ちくま新書)
16位(31点)  ⑯『学問の春』 山口昌男(平凡社新書)
           ⑰『ニッポンの思想』 佐々木敦(講談社現代新書)
          ⑱『落語論』 堀井憲一郎(講談社現代新書)
19位(30点)  ⑲『2011年 新聞・テレビ消滅』 佐々木俊尚(文春新書)
20位(28点)  ⑳『闘うレヴィ=ストロース』 渡辺公三(平凡社新書)
          (21)『ヤンキー進化論』 難波功士(光文社新書)

新書に造詣の深い書店員35人、書評家5人、各社新書編集部26人、新聞記者6人の総勢72人が、おすすめを5冊選び、投票した結果。1位10点、2位9点、3位8点、4位7点、5位6点で集計。(編集部は基本的に編集長、自社作品への投票はなし)

上記ベスト20の中で、売上げがベスト20に入っているのは⑥1位、②2位、⑩8位、①12位、⑧19位である。ちなみに、ベスト20に選ばれなかったが、売り上げ3位は『断る力』(勝間和代)、4位『日本を貶めた10人の売国政治家』(小林よしのり)、5位『子どもは「話し方」で9割変わる』(福田健)。
ちなみに、私が読んだのは①②③⑦⑧⑩⑫⑰⑳の9冊。

それにしても①『日本辺境論』は昨年11月の駆け込み発行を考えるとぶっちぎりに近い。一人5冊選べるのだから、入れたくなるのも当然か。

主題は、「めまぐるしく変化するものの、変化の仕方が変化しない」日本文化。内田はこれを丸山真男から採っている。「世界のどんな国民よりもふらふらきょろきょろして、最新流行の世界標準に雪崩をうって飛びついて、弊履を棄つるがごとく伝統や古人の知恵を捨て、いっときも同一的であろうとしないほとんど病的な落ち着きのなさのうちにわたしたちは日本人としてのナショナルアイデェンティティを見出した」。しかし、こんな国(日本)が生き延びているのだから、何か固有の召命があると云っている。
ここから、戦争、憲法、学びにおける師弟関係、日本語の特殊性ほか、過去の著名な書を巧みに引用しつつ、丸山真男、司馬遼太郎、新渡戸稲造、親鸞、澤庵禅師、白川静、カミュ、カント、ヘーゲル、ハイデガーなどを登場させて、話を展開していく。目の付け所のユニークさ、絶妙な語り口は内田ワールド全開。深い思索の跡は感じられないものの、さすがと言うしかないでしょう。

『差別と日本人』 も入るべくして入ったと誰もが納得するのでは。差別の問題を、これだけ不特定多数の人間に知らしめた本、現代では思いあたらない。政治家・野中広務の知名度、これまでの数々の言動が衆目を集めさせたのでしょう。加えて、在日である(対談相手)辛淑玉も、彼女ならではの切り口で、野中から、これまでにはない言葉を引きずり出している。敢えて引きずり出すと言ったのは、野中の苦悩が垣間見られるから。
辛淑玉による解説文は、差別問題をあまり知らない読者の一助にはなっているものの、解説というより解釈に近いかな。欲を言えば、もっと野中の話が聞きたかった。

『音楽の聴き方』の著者岡田暁生は、同じ中公新書から『オペラの運命』(サントリー学芸賞受賞)、『西洋音楽史』を出していて、いずれも質の高い新書。

「聴き方」とは「聴く型」のこと、すなわち、各人自由に音楽を聴いているように思えても、そこには「パターンとして聴く」という暗黙の約束事があって、音楽の構造面のみならず、「感動」という情動的反応においても、さまざまな型を刷り込まれていると筆者は云う。
厳密には同じとは言えないが、言語における「コード」、ソシュールのいう「ラング」を想起させる。
ここで終わってしまったら、素っ気ない話。筆者はそこから音楽を聴くことの本質論を展開している。

アドルノの論文に考察を加え、指揮者フルトヴェングラーやトスカニーニの演奏に言及。シューベルトの「ピアノソナタ第17番 ニ長調(D850)」をとりあげ、吉田秀和と村上春樹の解釈を対比させ、「音楽を語ること」の意義を説く。また、ポリーニ(ピアニスト)演奏によるショパンの「練習曲集」に触れながら、歴史文脈なしに音楽を聴くことは出来ないが、音楽を聴いたり、語ることは、音楽を歴史の中でデコードする営みと云っている。
これ以外にも、該博な知識をもとに語っていく様は十分に刺激的ではあるものの、クラシック音楽初心者にはちょっときついのでは。
内なる声に耳を澄ませ、音楽をひとつの啓示と受け取ることに全く異論はない。ただ、それを訴える際、やや「知」に傾いている感が拭えないのは残念。(興趣に富む音楽論であることは確か)

『戦後世界経済史』。日本経済新聞によるエコノミストが選ぶ「経済図書ベスト10」で第一位に、週間ダイヤモンド「ベスト経済書」で第二位に選ばれている。
<精読すべき書。筆者の議論は「知性でもって」欲望を制御できる方途について思索をめぐらせている><経済に疎い読み手にも気負うことなく読み進められる>といった感想が寄せられている。

『ノモンハン戦争』は著者が言語学者だったために、パスしていた。モンゴル人の視点から描き、新しい光を当てたと解説には書いてある。いずれ読んでみよう。

『しがみつかない生き方』。<勝間和代>の対極にある「ふつうの幸せ」を説いた論争の書と表現されていて、勝間和代との対論本も刊行されたと解説にあるが、いつまでこんなかたちで本をつくっていくのでしょうかね(編集者も含めて)。両著者の本は1冊ずつ読んだが、普遍的な視座を持っているようには思えず、個人的には興味がないというのが正直なところ。(現代社会が抱える問題に関心がないわけではありません)

『ぼくらの頭脳の鍛え方』 。二人それぞれ200冊を選んでいるが、唸らせてくれるような選書はそれほど多くはなかった。対談が刺激的との感想が紹介されていますが、そうでしょうか。予定調和的で、もの足りなく私は感じましたが。

〔立花隆〕僕はカントの『純粋理性批判』の議論は、ただの机上の空論と思っていますが、カントの『永遠平和のために』は評価しています。薄い本ですが、世界平和構築は、どうしても必要なことですから。そのとき頼りになる最初の原点に、カントのこの本がある。日本の憲法九条もその原点を辿ると、カントにいくわけですよね。

〔佐藤優〕ええ、世界の国々がそれぞれのエゴを捨てて、最終的に世界平和を建設する。そんな大きな夢を持ちつつ、現実の政治で、二律背反に耐えて生き抜くことが大事です。

う~ん、何を言いたいのでしょうか。最近の立花隆はこんなものでしょうという感じで、さして不思議ではないものの、佐藤優、他での言説に比すると緩すぎませんかね。
ディミトロフ『反ファシズム統一戦線 新訳』(国民文庫)を挙げる一方で、勝間和代『断る力』、養老孟『バカの壁』、藤原正彦『国家の品格』、田原総一郎『日本の戦争』なども挙げている。200冊に入れるような本でしょうか。コメントにも無理が感じられる。

第9位以下は〔2〕で。

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