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「第9回 秋も一箱古本市」 エピソード(1)

にわか雨による一時間近い中断にもかかわらず、大勢の方々に一箱の会場、そして<とみきち屋>に足をお運びいただき、ありがとうございました。
また、不忍ブックストリート青秋部のお二人、実行委員ほかスタッフの方々、助っ人の方々。場所を提供くださった大家さん。後援いただいた古書ほうろうさん往来堂書店さんオヨヨ書林さんにも、心から御礼申し上げます。

スリップを見ながら、この本はどなたに引き取っていただいたか、その時どんなご様子だったかを思い起こしています。
今回はスペースの関係もあり、店主・とみきちと二人一緒にお客様とお話しさせたいただくことが思うようにできませんでした。従ってお客様のやや後ろから見守ることも多く、私が不在だった30分弱の時間帯も含め店主・とみきちからのヒアリングの時間も増えています。

それでは、恒例のエピソード集始めます。いつもどおり、一般のお客さまとのお話から。

出店場所「アートスペースゲント」さんでは、ナンダロウ(南陀楼綾繁)さん、助っ人のIさん(早番)、青秋部石井さんの教え子でいらっしゃる大学生のお二人(遅番)にお世話になりました。箱の後ろ側にはすでに移動済みの植木が並んでおり、一人が坐るとその後ろは人が通れず。お隣との間が40㎝ほどなので、店主・とみきちとの連携作業が困難と判断。番頭の私がお客様の後ろからフォローする方針を固める。

11時開店前に早くもお客様の姿が。開店の合図と共に一人の男性がお見えになる。いつも早い時間に来られ、何度かお顔は拝見している方。何度古本市に参加しても、最初のお客様にご来店いただく際には緊張します。その日がどんな流れになりそうか、そこである程度決まっていまいそうに思えるからです。
ひととおり箱をご覧になられ、何冊か手にとられた後一冊お求めいただき、ほっとしました。

■内堀弘『ボン書店の幻』(ちくま文庫)350円

自分の蔵書から手放せる本ではありません。たまたま古書店で見かけ2冊目を入手できたので出品。「この値段なら」と満足いただけたご様子。ありがとうございます。
一箱古本市翌日、店主・とみきちのブログ「とみきち読書日記」に一人のお客様からコメントを頂戴しました。

「毎度楽しみにさせていただいております。お気に入りの店主さんを先に回ろうと一番に伺いました。欲しい本が5冊はあったのですが1冊で我慢してしまいました。ごめんなさい。その後すぐ雨で、大変でしたね。午後は青空でよかったです。次回も楽しみにしております。」

私ども<とみきち屋>にとって、かようなコメントをお客様からいただけることは、ほんとうに嬉しいことです。しかも、雨のことまでお気遣いいただけたなんて。
雨粒が落ちてきたのは開催後20分も経過していなかったので、コメントの内容と私たちの記憶、スリップへの記載を考え合わせると、コメントをお寄せくださったのは、まずまちがいなくこの最初のお客様だった思います。(万が一間違っていたら、すみません)。来春も参加させていただくつもりでおりますので、ぜひお立ち寄りください。今度はゆっくりお話しさせていただければと思っております。

二人目のお客様に、■尾形仂『芭蕉・蕪村』(岩波現代文庫)■国枝史郎『神州纐纈城』(河出文庫)をご購入いただいた直後雨が降り始め、中断に入る。

一瞬今日は終わったか…と思ったが、東京は地域によってにわか雨という予報を朝方耳にしていたので、気を取り直す。ナンダロウさんがいてくれたのも心強かった。

そのナンダロウさんに、普段私たちが参考にしている「東京アメッシュ」を携帯で見てもらう。PCで見れる時ほどクリアではないが、雨は文京区から台東区にかけての一部、しかも局地的にしか降っていない。「回復する!」という期待が膨らむ。空を見渡せる場所に移動し見やると、遠くは雲がさけ、青空もちらっと見える。

本を屋内に入れさせていただき、一旦解散。再開時には各人の携帯に連絡をいただく、携帯を持っていない、バッテリー切れの方は助っ人Iさんに連絡を入れるということにして。
とみきちと二人、早めの昼食をとりに「谷中銀座」へ。85歳のおじいちゃまがやっているおそば屋さんへ。当日の人力車による結婚披露のこと、谷中のことなどいろいろ教えていただき、谷中情緒を思わぬ形で味わえた。食後「よみせ通り」をぶらぶら歩いていたら携帯が鳴り、再開のお知らせ。12時をまわっていたが、続けられることが嬉しくてならない。残り4時間弱楽しもうと、ゲントさんに戻る。

雨による中断でお客様にどれほど来ていただけるか、一抹の不安はあったものの、再開後途切れることなく大勢のお客様がお見えになる。「一箱」の認知度の高さ、谷根千という街の魅力、底力を実感する。もちろん、多くの顔見知りの方々にも午後から続々とご来店いただき、励まされる。心強くもあり、楽しい。

■深沢七郎『人類滅亡的人生案内』(河出書房新社)
■古井由吉『円陣を組む女たち』(中公文庫) 『櫛の火』(新潮文庫)
■柄谷行人・中上健次『小林秀雄をこえて』(河出書房新社)
■長谷川宏『ヘーゲル『精神現象学』入門』(講談社選書メチエ) 計5冊

若い男性の方に、こういう選書で引き取っていただけるのは嬉しいです。「幅広くお読みになられるのですね」と声をかけさせていただくと、「そうでもないです」と微笑まれる。それから少しお話しさせていただく。深沢七郎はお好きな作家で、古井由吉『円陣を組む女たち』は探されていたとのこと。また、お会いしたい。

■ナボコフ『ナボコフ全短篇集〈1〉』(作品社) 
■バフチン『小説の言葉』(平凡社ライブラリー)
■鶴見俊輔『夢野久作と埴谷雄高』(深夜叢書社)
■内堀弘『石神井書林日録』(晶文社)
■林芙美子『林芙美子紀行集 下駄で歩いた巴里』(岩波文庫) ほかに文庫3冊
計8冊 5,000円

雨天中断後間もなく、リュックを背負われた男性がご来店。今回、当店で冊数、金額ともに一番のお買い上げいただきました。「安いよねえ。もっともっとほしいんだけれど」と言っていただく。そんなに安くはしていないのに…。ありがたいことです。
「ナボコフは〈2〉も出品できればよかったのですが」とお声をかけると、「いやあ、〈1〉だけでも、この値段なら十分」と。またのお越しをお待ちしております。

先に紹介させていただいた若い男性の方もそうですが、当店に初めてお越しいただいたにもかかわらず、まとめて購入くださる方が毎回のようにいらっしゃるのが驚きであり、嬉しいことでもあります。

■五味康祐『いい音いい音楽』(読売新聞社) 800円

一人のお客様が箱の前にしゃがんで本を選んでいらっしゃる。そのため、他のお客様が箱の前までは近寄れなません。前2回とは違い、ほぼ一日中このような状態だったので、申し訳ないなと思う。もちろん、先に見ていただいているお客様が迷惑などと言うことでは決してありません。二人のお客様が同時にご覧になれるスペースがなかったのです。

私の左後方から人影が。当店の箱をやや離れたところからご覧になり、いきなり「えっ?おっ、あったよ!」。お客様の目線が何をとらえたのか何とはなしに感じられ、思わず期待を抱いてしまいました。「今手にしておかなければ」という感じで、他のお客様の邪魔にならないよう、1冊の本に手を伸ばされました。
ビンゴ!! いてもたってもいられず、箱の前にいらっしゃるお客様に「横をちょっと失礼します」と声をおかけして、私は店主・とみきちと場所を交替。

箱の前が空いたタイミングを逃さず、「五味さん、お探しでしたか?」とお声をかける。「そう、探していたんだよ」と満面の笑み。その表情から、どんな本かご存じなのはわかりました。こうなると、中身をくどくど説明するのはかえって野暮というもの。

お買い上げいただく際、「巻末にある、娘さんの父への追悼文(「父と音楽」)が素晴らしいです」とひと言だけ。「そうですか。楽しみです」とお客様。

脱線しますが、一部だけ紹介させてください。自らピアノを弾き、これこそ理想と思える音に関して意見が一致すると、うれしそうな父と握手して喜ぶ娘の言葉です。(文中タンノイオートグラフとあるのは、今や伝説と化した有名な英国製スピーカーのこと)

母は音楽を聴いているときの父が一番好きだという。父がひとり静かにタンノイオートグラフの前に坐り、音楽を聴いているときの表情はとても厳しい。まだ二十年余りしか生きていない私に、父の音楽への姿勢を語りうるとは思っていないが、瞭(あき)らかに、父は、流れる音楽のなかに神を観ていた。バッハ、モーツァルトをとおして神の聲(こえ)をきいていた。それは父にとって、もっとも敬虔な時間であったと思う。だから、私は、音楽と対峙している父の真摯な横顔をみるたびに、どうしても声をかけられなかった。(略)父亡き今、最高の鎮魂は音楽を鳴らすこと、それはわかっている。しかし、あまりに悲惨でなかなかかけられなかった。(略)できることならば、毎晩のように、父の愛した音楽を聴かせてあげたい。しかし、私の手ではタンノイは鳴ってくれない。あの素晴らしい澄明な、ふっくらした気品にみちた音をきかせてはくれない。父の死とともに、殉死したのだ。

■森山大道『犬の記憶』『犬の記憶終章』(河出文庫)
■川村湊ほか『戦争文学を読む』(朝日文庫)
■熊野純彦 編『現代哲学の名著』(中公新書)

以前「みちくさ市」で閉店間際ということもあり、けっこう値引きさせていただき、加藤典洋『村上春樹のイエローページ1・2』ほか3冊をご購入いただいたおじいちゃまにご来店いただく!昔から本はよく読まれるとおっしゃっていました。その時古本市っていいねえという感想もいただいたのですが、一箱に来ていただけるとは感激。しかし、私の不在時(泣)。とみきちが「以前もお買い上げいただきましたので」と、100円分だけ気持ちサービス。それでも喜んでいただけたご様子。きっと店主さんとのやりとりをと楽しまれていらしゃるのでしょう。

■荒川洋治『文学が好き』(旬報社)
■鮎川信夫・大岡信編『戦後代表詩選』(詩の森文庫)ほか3冊

<とみきち屋>常連のお客様のお一人。お名前も伺えたので今回からYさんと呼ばせていただきます。9月の「みちくさ市」で荒川洋治『夜のある町で』(みすず書房)を引き取っていただいたのですが、今回はまず荒川洋治の本を手にされました。昨秋以来何冊も当店から本を購入していただいてますが、図書館で読める本はお借りになって、読後購入するかどうかをじっくり考えられる方。自らの足でこれはと思える本を探される方なのです。
出品していた辻邦生・水村美苗『手紙、栞を添えて』(単行本)をご覧になり、「最近ようやく文庫本のほうを手に入れたんですよ、格安で」とYさん。本に対する姿勢と愛情の深さを感じます。そのような方に対して番頭・風太郎(私です)はあろうことか、押し売りに入る(笑)。

「きっとYさんをお待ちしていたんですよ~、この本。持って帰ってもらいたいって(笑)」
「そうですか?まいったなあ。う~~ん」といつもの素敵な笑顔で迷われるYさん。
「巻末の一覧表が荒川ファンにはたまらないのです」と背中を押すどころか、背中に負ぶさる。
「じゃあ、もらおうかな」とYさん。ありがとうございます!!

これまで荒川さんの本を何冊も出品してきたので、今後出品できるのは残すところ1冊となってしまいました。もちろん『文学が好き』は、自分の蔵書1冊のみで、どこかで入手しない限り出せません。ほんとうによかったと思っているんです。Yさんの手元に渡って。いつも本を介しての楽しい時間をありがとうございます。

『手紙、栞を添えて』を読まれ、水村美苗のイメージが変わったとのこと。きっと書簡を交わした相手がよかったのではないかと思います。

■保田與重郎『後鳥羽院』(保田與重郎文庫・新学社)
■ローデンバック『死都ブリュージュ』(岩波文庫) ほか4冊

もう、古本市ではおなじみのHさん。もちろん、当店にとっても大のお得意さまです。

いきなり伊藤勝彦『天地有情の哲学』(ちくま学芸文庫)を手にとられる。

「伊藤勝彦よく読んだよ」とHさん。それからしばし伊藤勝彦の話。吉本隆明との対談があることを教えていただく。(おそらく「思想の発生する基盤」のことではないだろうか) その後、スタージョン『一角獣・多角獣』(ハヤカワ書房)ほか何冊かの本についてお話させていただく。

もうすでに一袋分お買いになられていて、この先他店を廻られるのはきついでしょうという状態だったので、Hさんの本をお預かりする。するとまあ、長い旅に出られる。お戻りになられた時には合わせて3袋か4袋になっていたような。お買いになったものの中から「こんなの買ったよ」と一冊みせていただく。その作家の本を以前当店から買っていただいたことがあったので、その点は何とも思わなかったのですが、雑誌としては珍しくはないのです。「誰もが飛びついて買う普通の雑誌(本)はかえってHさんのアンテナに引っかからないのかも」と思うと不思議に納得がいく。「それ、面白いですよ」とお答えすると、「そう。楽しみだな」とHさん。そのお顔がなんともキュート。私の想像など及ばないくらい本に造詣がおありだろうし、本を選ばれる速さ、ご覧になるときの鋭い眼光。本来ならこんな感じで接するのは失礼なのかなと思いつつ、一向に変わらない<とみきち屋>でございます。

お隣で出店されていた「まちとしょテラソ」の小布施町立図書館長・花井さんにHさんの事をお話ししたら、とても驚かれていました。どれだけの本を買われたか、実際ご覧になられたわけですし。(小布施のことはまた改めて)

古本市に参加する回数が増える度に、新しいお客様、店主さん、スタッフの方との出会いがあります。また、親しくさせていただくようになった方にわざわざお越しいただいたり、メールで励ましていただいたりと、嬉しいことがどんどん増えていきます。そのため、終了後のブログも少しずつ長くなっていくような。今回は、1週間がかり(これは変わらず)、4回くらいになるでしょうか…(笑)。
初めてお読みいただいた方も既にお気づきかと思いますが、「一箱古本市」全体のレポートではありません。私ども<とみきち屋>の目に映った、いわば風景を描いたものです。その点、ご了承ください。

今回の「秋も一箱」、春の「一箱」、そして素敵な谷根千の街の様子が写真でアップされています。まだ訪れたことのない方にも、その雰囲気がきっと伝わると思います。ぜひ、ご覧になってください。スライドショーも楽しめます。

こちら→ http://f.hatena.ne.jp/shinobazukun/

また、モンガ堂さんがリンク集を作成してくれています。こちらもぜひ。

こちら→ http://d.hatena.ne.jp/mongabook/20091011/p1

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