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「第9回 秋も一箱古本市」エピソード(2)

古本市が終わる度、長々書き綴っているものだと自分でも思います。一箱3回、みちくさ4回、これで7回目。飽きもせず、懲りもせず。
少しでも強く記憶に留めておきたいから-今のところそれ以外の理由が思いつきません。
言葉によるアルバム。写真は頭の中といったところでしょうか。

それでは、一般のお客様とのエピソードの続きから。

■利倉隆『天使の美術の物語』(美術出版社) 500円

開店時箱に入りきらず後から補充した本。気がつくと、ひとりの女性が手にされていました。ゆっくりとページを括る表情の何と穏やかなこと。ずっと見ていたい気持ちを抑え、視線をそらしてお待ちする。「これ、ください」「ありがとうございます」。交わした言葉はこれだけ。お声をかけたら、かえって何か大切なものを壊してしまいそうな気がして。

印象に残る店にしたい。一人でも多くの方に喜んでいただきたい。そんな思いで一日限りの<とみきち屋>を出しています。名前を憶えていただけるのはこのうえなく嬉しいことではありますが、憶えていただけなくてもいいかなと思えることもあります。このお客様が何かの折り、これは谷中の古本市で手に入れた本と思い出していただけたら、それも印象に残ったことに変わりはないのですから。

■佐川光晴『牛を屠る』(解放出版社) 300円
■洲之内徹『気まぐれ美術館』(新潮文庫) 700円

年輩の男性の方がご購入。残念ながら私の不在時だったため、お話しすることはかないませんでした。
洲之内徹が旅立っていくのは予想がつきました。文庫版の人気は安定しているので。気になっていたのは『牛を屠る』(解放出版社)の方。

屠畜或いは人が他の動物(生物)を食することに関しては、1998年鎌田慧『ドキュメント屠場』(岩波新書)、2004年森達也『いのちの食べ方』 (理論社)、2007年 内澤旬子の労作『世界屠畜紀行』(解放出版社)、2008年妻夫木聡主演による映画『ブタがいた教室』、2009年(春)ドキュメンタリー映画『いのちの食べ方』(※森達也の本とは全く別物)など、話題となったものが多い。
日本における屠畜は差別の問題を避けて通れない面もあり、焦点のあて方が難しい。そんな中、内澤旬子、佐川光晴の著作は屠畜・屠殺そのもの現場を克明に描くことによって、ひとつの職業としての尊厳さを唱えている。遠ざけられ、隠されているがゆえに、差別意識を生じさせるのではないかという考え方が(微妙な違いこそあれ)両者の根底にあるように思える。

動物は、エサをやるだけじゃなく、かわいがって話しかけて飼えば、犬だけじゃなく、豚だって牛だって、飼い主の呼びかけに喜んだりするんじゃないだろうか。つまり、家畜として(情けをかけ過ぎずに)飼えば家畜となって、使役したり食べたり、皮を取ったりするのに適した存在となり、ペットとして愛情をかければ、どんな動物でも感情のある相棒となる。

これからも動物をときにかわいそうと思いつつ、でも自分で擬人化したイメージに流されず、責任をもって丁寧に食べていきたい。

『世界屠畜紀行』の中でこう述べていた内澤氏は、その後、自ら豚を飼育し、食している。その様子がブログに書かれています。(→こちら)

一方、佐川氏は1990年から2001年まで屠場で働いていた経験をもとにあくまで「屠殺」という言い方に拘る。

「死」には「冷たい」というイメージがつきまとう。しかし、牛も豚もどこまでも熱い生き物である。ことに屠殺されてゆく牛と豚は、生きているときの温かさとは桁違いの「熱さ」を放出する。(略)差別・偏見を助長しかねない「殺」の文字を重ねなければ、われわれが触れている「熱さ」に拮抗できないと考えていたのではないだろうか。(略)牛や豚を殺しているのではないと言い張りながら、「殺」を容認するのは矛盾だが、われわれは「屠殺」という二文字の中に作業場でのなにもかもを投げ込んでいた。

「命をいただく」ことを考える上で、多くのヒントを与えてくれる2冊です。

ご存じの方も多いと思いますが、不忍ブックストリートMAPのイラストは内澤さんが描いていらっしゃいます。

■仲正昌樹『デリダの遺言』(双風舎)
■中上健次・村上龍『ジャズと爆弾』(角川文庫) ■ランボオ『ランボオの手紙』(角川文庫)

カップルでご来店いただき、30代と思われる男性にご購入いただく。ああ~~。先方が嫌でなければ、いろいろお話ししたいという選書。この時も不在。わずか30分弱店を離れていた時間帯に、応対できなかったお客様の多かったこと(泣)

■内田樹『ためらいの倫理学』(角川文庫)
若い女性のお客様。みちくさ市でもそうだったのですが、内田本は女性の方の購入が多い。
「内田樹の本は読まなくてもいいんだけどなあ」
「ブログとか講演をベースにした著作が多いですものね」と店主・とみきち。
「そうそう。ブログと同じような感じ」
でも、本を元には返されないお客様。そこで、とみきち。

「『ため倫』!」
「うん、『ため倫』!安いからもらっておこうかな」とお買い上げいただく。

この流れ、私番頭・風太郎には全くわかりません(笑)。でもご購入ありがとうございます!!
デビュー作ということもあって、文章がややかたく読み辛いかもしれませんが、内田樹のエッセンスは詰まっているので、読んで損はないと思います。と、弁解。

■佐野洋子『シズ子さん』(新潮社)

ご夫妻でご来店。野呂邦暢ほか渋めの本を手にとられては、お二人で会話を交わされる。その内容からしてかなり本に詳しく、当店が出している本のめぼしいものは既にお読みか、お持ちのご様子。このまま他に移られるのかなと思った時、二段重ねにしてあった下段左端から手に取られたのが『シズ子さん』。
「なんか、この値段では申し訳ない感じよね」と奥様。
「はい、確かに。ただ、佐野洋子の本は、当店の一押しなので、繰り返し同じ本であっても出品させていただいております。一人でも多くの方に読んでもらいたいという気持ちからこの値段にしております」とお話しする。

実はこの本、その直前、遠く宗善寺から素敵な和服姿でわざわざお越しいただいた<どすこいフェスティバル>さんのTさんがお気づきにならなかったもの。「佐野洋子さんの本があったのね」という言葉に恐縮。2段にびっしり重ね過ぎたため、和服をおめしになられていたTさんには見つけにくかったのだと思います。ごめんなさい。次回からはもっと本を探しやすいよう工夫いたします。
<どすこいフェスティバル>さんからは、Kさん、ご友人のYさんもご来店。Kさんにはカナファーニー『ハイファに戻って 太陽の男』もご購入いただき、ありがとうございます。
「一箱」「みちくさ市」何度もお越しいただき、親しくさせていただいているのに、こちらからは伺えずすみませんでした。
売上げ点数111点、ぶっちぎりのトップ。凄い!のひと言です。いい本を、お客様がお求めやすい値段で数多く提供されたのでしょうね。伺っていたら10冊くらい頂いてしまったかもしれません(笑)。

中平卓馬の本、写真集ほか3冊とも引き取っていただきました。手に取る方が多く、人気のあることを実感。追悼の意を込めて1冊のみ出した庄野潤三。『文学交友録』(新潮文庫)500円も思った通り行き先が決まりました。マルグリット・デュラス『ヒロシマ私の恋人』(ちくま文庫)600円は30代と思われる女性の元へ。アラン・レネ監督による映画『二十四時間の情事(ヒロシマ・モナムール)』はご覧になられたものの、原作本は未読。文庫の古書なので、値段的に「少し高いかな」と迷われたようですが、品切れ本であることをご説明すると、次回どこで出会えるかわらないからと、引き取っていただけました。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

出店場所アートスペースゲントさんを担当していただいたナンダロウ(南陀楼綾繁)さんには、初めて当店からお買い上げいただく。当店がウェイトを重くして揃えている、文学、思想本もナンダロウさんにとっては月並みであろうし、かといってそそるような珍しいもの、面白いものもなし。諦めていただけに嬉しいです。購入いただいたのは雑誌『東京人』でしたが、実は『鶴見俊輔 書評集成3』を、残っていたら購入いただけたことを伺いました。この本、(次回書かせていただく)駄々猫さんに引き取っていただき、箱から消えておりました。
ナンダロウさんからは、『本が好き!vol.41』(光文社)を頂戴する。ナンダロウさんの記事「本町通り(ブックストリート)を歩こう」<最終回>が掲載されています。

右隣には、<ゆず虎嘯>さんが出店されていました。お名前は存じ上げていたものの、お話させていただくのは初めて。昔よく通った、今でもたまに訪れる素敵な街、国立(くにたち)にお店を出されています。旭通り沿い。あの有名な「谷川書店」さんのすぐ近くとのこと。

左隣には、信州小布施から参加された<まちとしょテラソ>さん。小布施町立図書館長・花井さんとは楽しくいろいろお話しさせていただきました。9月に催された「まちとしょテラソ市 <一箱古本市>」、来春4月17日・18日と実施されるみたいですね。

同じくアートスペースゲントさんには<古書 北方人>さんもご出店。みちくさ市などでは、毎回のようにいい本を安くいただいております。私などが全く知らない、しかし見る人が見ればすごい本が並んでいるのは、お客様の嬉しそうな顔、驚きの声を聞けばわかります。
今回初めて素敵なお嬢様にもお会いできて、嬉しかったです。
<photogramme>さん、<books195>さん、<orz文庫>さんとはほとんどお話しできず、残念でした。またどこかでご一緒させていただくこともあろうかと思います。その折りにはよろしくお願いいたします。

……………エピソード(3)に続く。

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コメント

番頭さん、「一箱古本市」おつかれさまでした!
「どすこいフェスティバル」のTです。

さすが「とみきち屋」さん。売上点数、金額とも第2位!
おめでとうございます!!
うちは「安い、多い、ノンジャンル」がチャームポイント。
数だけは伸びました。ある意味、申し訳ないような…

ああ『シズコさん』、いま思い出しても悔やまれる。
店主としてまわる古本市は落ち着かなくて見逃しました。
佐野洋子さん、いいですよね。わたしは勝手に「牡蠣」
だと思っています。読み手が元気じゃないと当たっちゃう(笑)

「とみきち屋」さんはやはり一番最初に行かなきゃいけない
お店です。また古本市でお会いするのを楽しみにしております。

投稿: どすこいフェスティバル(T) | 2009年10月18日 (日曜日) 18:19

風太郎さん、こんばんは。

風太郎さんのブログ、「とみきち屋」さんの
品揃え、ああ、おふたりとも「本」を大事に
されているんだなぁ、とすごく伝わってくるので
あります。
そんなおふたりのたたずまいに憧れだけが
つのります。
「本」を「ひと」を大切にされるおふたりの
存在が、これだけ吸引力をもって支持されること、
そういう出会いの場を創って下さった実行委員・スタッフ
助っ人の方々にあらためて頭が下がるのでございます。

みちくさ市も楽しみにしています。

投稿: どすこいフェスティバル(K) | 2009年10月18日 (日曜日) 19:25

>どすこいフェスティバル Tさま

「一箱」おつかれさまでした。
<どすこいフェスティバル>さんは和服姿で応対され、素敵なブックカバーを提供されているだけでも、魅力あふれるお店ですから、その上いい本を様々なジャンルにわたって安く出品されたとあれば、鬼に金棒。きっと多くの方が喜ばれたことと思います。私もその一人になりたかった!

『シズコさん』、とみきち屋の番頭に手に入れるよう言い渡して置きました。こういう時、普段にもまして力が入るみたいなので、お急ぎでなければ、お待ちいただいた方がよろしいかと存じます(笑)

>佐野洋子さん、いいですよね。わたしは勝手に「牡蠣」
だと思っています。読み手が元気じゃないと当たっちゃう(笑)

ああ、そんなところあるなあと思いました。
読めばそれだけで元気がもらえるという単純な本ではありませんよね。
味がどうであろうと、読む側がお腹に入れて消化して初めて、毒なのか栄養たっぷりな食べ物なのかが判るといったような(笑)

佐野さんは自身の弱さをきっちり踏まえた上で発言していると思えるので、とみきちも私も好きです。

またどこかの古本市会場でお会いできますよね。
楽しみにしております。
コメントありがとうございました。

投稿: 風太郎 | 2009年10月19日 (月曜日) 00:49

>どすこいフェスティバル Kさま

Kさんにはいつも温かく見守っていただいているように感じております。とみきち共々。

「憧れ」など、私どもには身に余るお言葉。恥ずかしくて逃げ出してしまいそうです(汗)

「本」を通じ、「ひと」と出会える。その喜びを、そこで得られたものを大事にしたい。そう思わせてくれる古本市は私たちにとって今や貴重な場です。
Kさんもおっしゃるように、多くの方のこれまでの苦労、開催ごとのお力添えあってのものと、私も感謝の気持ちでいっぱいです。こんなに楽しませてもらっていいのだろうかという思いを抱きながら。
同時に、顔見知りの方も含め、何度もお越しいただき、本を引き取っていただく方々に支えていただいている。そんな思いも強まる一方です。

今回<どすこいフェスティバル>さんから、111点もの本が旅立っていったということは、驚きと賞賛に値すると思います。単に安いというだけで達成できる数字ではありませんよね。同じ出店者として感じます。一箱にお見えになるお客様は目が肥えてらっしゃいますし、できるだけ多くのお店から、いいものを満足ゆく値段で入手しようと思って来られるのですから。魅力ある本、いい本でなければ持ち帰ってはいただけないと思います。
それだけに、そちらのお店を拝見できなかったのが残念でなりません。

硬めの本中心、見ばえのぱっとしない店構え、お客様との接し方。品揃えに多少の工夫はあっても、<とみきち屋>のスタンスは変えようがないと思います。「相変わらずだねえ」-それがお褒めの言葉であるような店で在り続けたいと思っております。頑固に(笑)

今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: 風太郎 | 2009年10月19日 (月曜日) 02:52

お世話になりました。
なにぶん初めての事で、勝手がわからずといった感じでしたが、いろいろお話をさせていただいたこと、大変勉強になりました。
これから春に向けがんばります。
ブログも楽しく拝見し、勉強させていただきます!!

投稿: HANAI | 2009年10月20日 (火曜日) 18:43

>HANAIさま

こちらこそ、いろいろとありがとうございました!
がさつな二人組ゆえ、ご迷惑おかけしてしまったのではないかと心配しておりました。

いつか長野方面に行く時には、小布施まで足を伸ばしてみたいと思いました。本当に素敵な町、素敵な図書館ですね。

来春の一箱の成功を祈っております。

わざわざコメントいただき、ありがとうございました。

<とみきち屋> 風太郎&とみきち

投稿: 風太郎 | 2009年10月21日 (水曜日) 02:49

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