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不忍ブックストリート「一箱古本市」 エピソード(2) 続・お客様と本

一箱古本市はある程度本を目当ての、本好きの方のご来店が多い。古本好きとなるとやはりおじさま(笑)。しかも当店、女性やこどもを惹きつける工夫なし、本はやや古め。自ずと女性のお客様が少ない。今回は珍しく3割が女性のお客様だったが、前回は2割ほどだった。
そこで、印象に残った女性のお客様のお話から。

■野原一夫『図説太宰治』(ちくま学芸文庫)400円
■野原一夫編『太宰治のことば-愛と苦悩の人生』(ちくま文庫)400円
■奥野健男『太宰治論』(新潮文庫)250円
■杉森久秀『苦悩の旗手―太宰治』(河出文庫)300円
■森山理文『微笑の受難者 太宰治』(現代教養文庫)300円
■長篠康一郎『太宰治 七里ヶ浜心中』(広論社)500円

今回、月並みだが<太宰と安吾>という特集を設け、19冊用意。せんべい缶に入れる。
年輩の女性の方が来店するや否や1冊引き出し、
「あら、やだ。こっちの方が安くてきれい。損しちゃったわ~」。
そしておもむろに、バッグから購入された本を取り出してこちらに見せる。

<まいったな・・・>
「それはたまたまで、うちが出品していなければ、今日入手できなかったもしれませんよ。そういうこともあるのが、こういった古本市の面白いところでも・・・・・」と話しかけるも、ほとんど聞いていらっしゃらない(笑) いきなり、
「私、太宰が好きなのよ」と太宰おばさま。
「そうですか。私も好きです」(中略)
「これお読みになられましたか?太宰と心中した山崎富栄によるものですが」と、『太宰治との愛と死のノート』(女性文庫)を紹介。
「ああこれねえ。日記でしょ。単行本で読んだわよ」
<30年以上も前に出版された単行本で!>と驚き。
「これ、面白いわね」と野原一夫『図説太宰治』を手にとられる。写真や草稿が入っているのがお気に召されたご様子。ここから一気に4冊手にかかえられる。
それから、「どっちか持っているのよ」。奥野健男『太宰治論』(新潮文庫)と奥野健男『太宰治』(文春文庫)で迷われる。
「同じ著者ですからねえ。装幀の色が違うのですが、覚えていらっしゃいませんか?」とお尋ねしても、思い出せないらしい。そこで、横で話しを聞いていた店主とみきちが、
「近くにお住まいでしたら、確かめていらっしゃってからでも。お取り置きしておきますので」
「それが近くにお住まいじゃないよねえ(笑)」。おばさま含め3人で笑ってしまう。
気をよくされたのか、一大決心。新潮文庫版を選ばれる。

直後、「あら、これ初めて」と『太宰治 七里ヶ浜心中』を手にとられ、これもお買い上げいただく。
計6冊 2,150円、太宰本ばかり。ご来店された時とはお顔が違う。こちらも嬉しくなる。
来店時損されたとお思いになっていらっしゃった額に相当する150円分サービスし、2,000円お支払いいただく。もう、お会計の際にはそのことも忘れてしまっていた(笑)。よかったよかった。
同会場の他のお店を廻られてから、最後にまた店頭で声をかけていただく。
「ありがとね~~」。すてきな太宰おばさまの話。

■ジャン・ジュネ『黒んぼたち・女中たち』(新潮文庫)700円

最初は、こんな感じに齢を重ねられるのは素敵だなあと思える女性3人でご来店。その後他のお二方とは別にお一人で再度来店。まず、シオラン『生誕の災厄』を手にされる。さきほどご友人達とにこやかに談笑されている時とは明らかに感じが違う。これはすぐに声をかけない方が賢明と、何冊かご覧になられているのを黙って見ていた。そして、ジュネの文庫へ。
「ジュネなんて、もう日本では読まれないのかしらねえ」
「どうでしょうか。私もそこらへんの事情には疎く・・・。新潮文庫は『泥棒日記』以外絶版のようですが、河出文庫からは確か『葬儀』ほか3冊くらい出ていると思います」
「日本語で読んでみたくなったの」
「???」
「パリにいたの。だからね。パリなら小さなところでもジュネの芝居がかかっているのよ」
この言葉、その眼差しにノックアウト。
雰囲気と、一度も崩れないピンと背筋の伸びた姿勢から、店主とみきちが、
「失礼ですが、舞台とかに出られるている女優さんですか?」と尋ねると、
「違う違う(笑)。でも、そう思ってもらえるなんて嬉しいわ」。
お買い上げ後、他のお二人と合流し会場を後にされる。その後ろ姿にしばし見とれてしまった。

■原一夫編著『ドキュメント ゆきゆきて神軍』(現代教養文庫)400円
■島尾敏雄『夢日記』(河出文庫)300円

この両書とも読まれたか、或いはご存知の方、この2冊をどのような方が購入されたか想像つくでしょうか。静かに箱に目をやり、手にとって。値段を確認後そっと差し出され、ひと言もなく去っていかれました。どう見ても、20代前半の女性。ただただ驚くばかりで、声をかけるタイミングを逸してしまう。お話ししたかったと悔いが残ります。

■アン・タイラー『ブリージング・レッスン』(文春文庫)

裏表紙の解説を読んでいらっしゃるご様子から、かなり興味を持たれているような。ご夫婦で来られた、40代と思われる女性。
「ピュリッツア賞を受賞したすてきな作品なのに品切れなんですよ。お勧めです」と背中を押してしまう。お買い上げ後、黒岩重吾『西成山王ホテル』『飛田ホテル』(角川文庫)に興味を示される。
<え、なんで・・・?アン・タイラーお勧めした直後になんと説明したらいいんだ・・・>
どや街、釜ヶ崎、西成、山谷、人間や男女の業などの言葉を織り交ぜ、「ぐちゃぐちゃどろどろの世界が描かれていますが、不思議なリリシズムを感じます」などと、しどろもどろの説明。結局、「面白そうだけど、なんか疲れそうねえ。今どろどろの世界は気分じゃないから遠慮しておくわ(笑)」。
なぜか、ほっと胸を撫で下ろす。

■深沢七郎『みちのくの人形たち』(中公文庫)600円
■エミール・ゾラ『獲物の分け前』(ちくま文庫)400円

それぞれ、中年の女性の方が購入。
深沢七郎『みちのくの人形たち』の存在はご存知ではなかったとのこと。まとめて深沢七郎の小説を読みたくても、『楢山節考』以外、新潮文庫版が新刊で入手できないのを残念に思っていらっしゃった。この方には、吉田秀和『レコードのモーツァルト』(中公文庫)も併せて買っていただきました。

■ヘンリー・ミラー『南回帰線』(新潮文庫)300円

 「『北回帰線』はないんですか?」と訊かれる。『南回帰線』は品切れだが、同じ大久保康雄訳の大文字新装版が新潮文庫で出ているので、新刊書店でも購入できることをご説明。また、南は河野一郎訳が講談社文芸文庫から出ているが、「正直、高いですよ」と伝える。「これもらいます」と購入いただく。

■エルンスト『百頭女』(河出文庫)350円

文字が極端に少なく、絵で埋め尽くされている物語に興味を持たれたご様子。
以上、若い男性。

■洲之内徹 『気まぐれ美術館』『帰りたい風景 気まぐれ美術館』『絵の中の散歩』 新潮文庫3冊セット 2,500円

購入された中年の男性ご自身はお持ちだが、「知り合いがずっとほしがっていたから、あげたくて」と。親しい方の探している本が頭に入っているなんていいなあと思える。
出品本とは別に今回、大原富枝『彼もまた神の愛でし子か 洲之内徹の生涯』(ウエッジ文庫)をカバーがけで用意。「ご購入いただき、ご希望の方にはプレゼントします。」とPOPに表示。3冊まとめてお買い上げいただく条件をつけてしまったため、せめてものサービスと思い。とても喜んでいただけた。
相変わらずの人気の高さを実感。<往来堂書店>さんが、「洲之内の文庫が品切れなんておかしいよ」とおっしゃられていたが、全くその通りだと思う。
その往来堂書店さんに、ヤコブセン『死と愛』(角川文庫)について、「この本なかなか見ないよねえ」と言っていただけたのは嬉しかった。最後まで引き取り手はなく、手にとってもいただけなかったので。

さて、ここまで書いても、まだ書き足りない、終わらない。
「もういいかげん、飽きた」という声も聞こえてきますが、記録としても残して置きたいので、次回エピソード(3)書きます(笑)。

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コメント

深沢七郎「みちのくの人形たち」を買った者です。
おすすめどおり読んで正解でした。おもしろかったですし、これからますます深沢作品を読もうとはげまされ(?)ました。
次回の出店には、午前中にうかがいたいです。

投稿: クヌギー | 2009年5月15日 (金曜日) 12:32

>クヌギーさん

コメントありがとうございます。
クヌギーさんに『みちのくの人形たち』(中公文庫)を引き取っていただけてよかったと思っています。

『楢山節考』を初めて読んだときの衝撃は今なお鮮明に残っており、何度読み返しても色あせることはありません。
深沢七郎の小説にはとても惹かれます。私たちの日常とは遠くかけ離れた世界が描かれているにもかかわらず、懐かしさに近い感情をかき立てられたり、虚無的なようで、えもいわれぬ透明感を感じてしまう-不思議な作品です。
それだけに、『楢山節考』しか文庫では読めない現状が残念でなりません。
『笛吹川』『東北の神武たち』ほか、名作・佳作と思える作品がたくさんあるのに。

すぐにでも他の作品を読みたいと思っていらっしゃるなら、図書館から筑摩書房刊『深沢七郎集』を借りるという手もありますが、古書店、古本市に足を運び1冊1冊見つけていくのも、楽しいことですね。

>次回の出店には、午前中にうかがいたいです。

そのように言っていただけるなんて、とても嬉しいです。
クヌギーさんのお越しを楽しみにお待ちしております。

投稿: 風太郎 | 2009年5月16日 (土曜日) 12:10

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