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不忍ブックストリート「一箱古本市」エピソード(3)

持ち込む本は100冊以内に収めるつもりだったが、結局120冊。設けた2つのテーマ「太宰と安吾」「日記と自伝」だけで合計41冊になってしまったこともあって。
みちくさ市と同じ出品は16冊。100冊以上、一箱古本市のため新たに出品。

■ 五味康祐『五味康祐 音楽巡礼』(新潮文庫) 1,200円
■ 五味康祐『ベートーヴェンと蓄音機』(ランティエ叢書) 1,000円
■ 辻壮一『バッハ』(岩波新書) 200円
■ 佐野洋子『神も仏もありませぬ』(ちくま文庫) 200円

とみきち屋番頭の一押しと宣伝しながら、手にとってはいただけるものの、引き取っていただくまでには至らず、気がつけば閉店1時間前の3時になろうとしていた。<このままでは看板倒れだな・・・>と焦りが生じ始めた頃、一人の年輩の女性がご来店。
『バッハ』を手にされたので、クラシック音楽に興味はお持ちなんだなと思える。その後、五味康祐の2冊を交互にパラパラとめくっては、いったん箱に戻し、また手にとられ。
ここぞとばかりに、五味康祐や本について蕩々と語ってしまう。

オーディオマニアではあるが、単にそれだけではなく、音楽を聴くことが生きざまにまで昇華されている。不幸な交通事故をきっかけに罪悪感が心の奥に棲まい、音楽を聴く時にいっそう大きな影響を及ぼすようになったこと。それが読者には息苦しく感じられることもあるが、「ほんもの」と「うそ」の音楽の違いとは何なのか、大きな示唆を与えてくれる本であるなどと。
お客様が根負けされたのかもしれない。しかし、特に『音楽巡礼』は、そう簡単に手に入る本ではなく、「読んで損することはありません。是非読んでいただきたい」という気持ちだけは、伝わったような気がする。
「じゃあ、読んでみようかしら」と言っていただいた時、胸の奥から熱いものがこみ上げて来た。また一人、読者が増えたことの喜びとでも言おうか。
心に残る本となってくれることを、ただただ願うばかりだ。
とみきち屋の店主、番頭ともバッハの音楽、佐野洋子の著作は大のお気に入りでもあるので、最後に佐野洋子も加えていただいたことに、不思議なご縁を感じてならない。

■ 工藤庸子『プルーストからコレットへ』(中公新書) 300円
■ 堺利彦『文章速達法(講談社学術文庫) 350円

なかなか箱の中の本を手にとろうとはなさらず、5分以上ご覧になっていた、30代後半と思える男性。正面からは見えなかった200円・300円本の小さな箱に気付かれたみたいだ。ここでも本には触れず、ひととおり目で確認される。そして・・・男性の顔に笑みが漏れ、それがだんだんと満面に拡がり、声には出さないのだが、嬉しくてしかたがないといった感じに。このコーナーに珍しい本など一点も置いていなかったので、店主と二人顔を見合わせ、ちょっとばかり引き気味になってしまった。
すると、わたしたちの気持ちをときほぐしてくれるかのように、男性が初めて話し始めた。
「いや~、ありましたねえ。実はこちらの店、今日で3回目なんですよ」
「???」
「最初が去年の秋、吉田知子」
「ああ、あの! 狙い打ちといった感じで、お買い上げいただいた」
「そうそう。次がみちくさ市、『フランス恋愛小説論』」
「そうでしたか。私が不在の時ですね。すみません、2冊まとめて出さずに。みちくさ市の前から、『プルーストからコレットへ』は一箱用と決めてしまっていて・・・」
「いいんですよ。でも何故かここは、確率が高いんだなあ」
どうやら、本の好みが似ていると仰りたかったようだ。
「それは、それは。そうですか、3回目ですか。ブログとかご覧になるんですか?」
「いや、そういうのはほとんど見ません」
ということは、当店が出店していることをご存知だったわけでなく、古本市が好きで足を運ばれた際、たまたま3回続けて当店に欲しい本があった、売れずに残っていたということなのか・・・。これもまた不思議な出会いに思えてならない。

それから、小一時間。ふらっと、その方がお見えになる。
「一回りして、最後にまた買おうと思って」と、素敵な笑顔。
「うれしいです。そんなふうに言っていただけるなんて」
「『藤村のパリ』、まだ残っています?」
「すみません。河盛好蔵、さきほど年輩の方がお持ち帰りになりました」
「ははは、やっぱり甘かったか」 (※この本は200円コーナーに入れてあった)
しばらく箱をご覧になってから、堺利彦『文章速達法』をお買い上げいただく。
また一人、古本市で再会したいお客様が加わった。

<打ち上げ会場にて>

一人の女性の方から受賞のお祝いの言葉をかけていただく。なんと、昨年のみちくさ市プレ開催で、当店から佐野洋子の本を購入いただいた方とわかる。その際、荒川洋治の本も出品しており、記憶に残っていたとか。そして、今回の一箱。
「荒川洋治さんの本買ったんですよ~。でもね、それが、ちょっと・・・(笑)」
このリアクション、ひょっとして、あの新潮文庫?
案の定バックから出てきたのは『ボクのマンスリー・ショック』(新潮文庫)!
「あり小屋さんで買ったんですよ。さっき早速読んでみたら・・・ねえ!」
「はいはい。○○○○○劇場のレポートなどが書かれていて、荒川さんの本では特異なものですからねえ。それ買っちゃたんですか(笑)」
「でも、けっこう面白い」
「今度あり小屋さんにお会いしたら言っておきますね。説明してあげなくちゃ~って(笑)」
こんな会話を交わせるのもまた、楽しい。

【 お買い上げいただいた本の中から一部をご紹介】 ※エピソードでは触れなかった本

■ 塚本邦雄『菊帝悲歌 後鳥羽院』(集英社)
■ 淀川長治・蓮實重彦・山田宏一『映画となると話はどこからでも始まる』(頸文社)
■ 牧野信一『父を売る子 心象風景』(講談社文芸文庫)
■ 後藤明生『首塚の上のアドバルーン』(講談社文芸文庫)
■ 後藤明生『四十歳のオブローモフ』(旺文社文庫)
■ 石川淳『夷齋小識』(中公文庫)
■ 辻邦生『モンマルトル日記』(集英社文庫)
■ 長谷川宏『同時代人サルトル』(講談社学術文庫)
■ 小林秀雄『近代絵画』(新潮文庫)
■ 坂口安吾『日本論』(河出文庫)
■ 鶴ヶ谷真一『増補 書を読んで羊を失う』(平凡社ライブラリー)
■ 吉本隆明 他 『親鸞』(平凡社ライブラリー)
■ 辻まこと『忠類図譜<全>』(ちくま文庫)
■ P.ハイスミス『変身の恐怖』(ちくま文庫)
■ ベルナノス『田舎司祭の日記』(新潮文庫)

【 お買い上げいただいた方々 】 ※順不同

たけうま書房さん/ふぉっくす舎 NEGIさん(2冊)/あいうの本棚さん(2冊)/退屈男さん/ayanokouzonoさん(2冊)/古書北方人さん/古書有古堂さん/あたまるブックスさん/古書、雰囲気。さん/鉱石書房さん/黒岩比佐子さん

そして、お名前は存じ上げませんが、とみきち屋にてお買い上げいただいた方々、とみきち屋にお立ち寄りいただいた方々に心より御礼申し上げます。
またどこかの古本市でお会いできるのを楽しみにしております。その時は、ぜひお声をかけてください。

店主:とみきち http://yomuyomu.tea-nifty.com/dokushononiwa/    
番頭:風太郎

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