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2009年5月

浮いたり沈んだり

この前の日曜は朝から5時間近く音楽に浸り夢見心地。なのに、夜になって一転。激しい歯痛に襲われ、顎から頬、耳の裏側あたりまでが、おたふく風邪のように腫れ上がる。2年ほど前にもらった痛み止めを飲んで何とか朝までやり過ごした。翌月曜夕方、15年以上診て貰っている歯医者に駆け込む。原因は神経。歯に小さな穴を開け治療。神経は抜かない方がいいとのことなので、しばらく痛みから解放されることはなさそうだ(泣)。

今週は、新書2冊を持ち歩いて読んでいる。宮台真司『日本の難点』(幻冬舎新書)と鹿島茂『吉本隆明1968』(平凡社新書)。宮台の本は、奥平康弘との対談『憲法対論』(平凡社新書)以来久しぶり。その当否は別にして、憲法を考える上での新たな視点を獲得できたので、内容も濃く、無駄にはならなかった。しかし、今回の『日本の難点』は新刊で買う必要はなかったなというのが正直な感想。衝動買いを後悔。
久しぶりに著者のブログを覗いてみたら、「政界、財界、官界で評判になりはじめているという情報が別々のルートから入っています。 それとは別に、新宿ブックファーストでは若い世代に売れているということです。」に始まり、○○○書店で売上げ1位、増刷○○冊などのオンパレード。自著の宣伝が悪いとは思わないが、ここまでくると少々うんざり。詳しい説明もなく、「今回の増刷分から、複数の問題点を解消したバージョンとなります。」とだけ書いているのを見て唖然。
自らを現代社会の導き手と思っているとは言わないまでも、啓蒙家的視線を随所に感じてしまうのは私だけであろうか。
それに比べ、鹿島茂の『吉本隆明1968』はその執筆姿勢に好感が持てる。私が吉本隆明を支持しているからという理由で言っている訳ではない。吉本隆明とはいかなる思想家か。その凄さがどこにあるかを、吉本のことを知らない世代も視野に入れ、根気強く説いている。まだ100頁ほどしか読んでいないが、期待が持てる。400頁を超えるのだから、新書にしては大著。

仕事帰りにのんびり古書店を見て回る時間もなかったが、新しい仕事先に行く途中、「こんなところに古本屋が?」というような偶然の出会いがあって、店構えからは想像もできない本を手に入れることができた。

■ 田中小実昌『カント節』(福武書店)
■ 深沢七郎『怠惰の美学』(日藝出版)
■ 石原吉郎『望郷と海』(筑摩書房)

よく行く仕事先近くのブックオフで

■ ヘミングウェイ『移動祝祭日』〔高見浩訳〕(新潮文庫)
■ E・A・ポー『黒猫・アッシャー家の崩壊』〔巽孝之訳〕(新潮文庫)
■ 正宗白鳥『自然主義文学盛衰史』(講談社文芸文庫)
■ 姜尚中・中島岳志『日本 根拠地からの問い』(毎日新聞社)
以上105円。
■ 下條信輔『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)450円

浮いたり沈んだりの1週間だった。
明日は久しぶりの日曜仕事。朝7時半には家を出なければ。

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音楽三昧 ヴィヴァルディ~アリアーガ~ベートーヴェン~モーツァルト~ブルックナー

先週全般の睡眠不足の影響か、昨夜は午前0時前にダウン。記憶も飛んでいる(笑)。
今朝は午前6時前に目が覚めた。明日までに準備せねばならない資料の作成でも始めようかと自室のミニコンポで、BGMとしてヴィヴァルディのCDをかけた。頭と心とからだ、すべてにすうっと染み込んでくる。もう、止まらない。それから5時間あまり、PCを消し、読書もせず、ひたすら音楽を聴きまくる。
そういえば、2週続きの古本市、そのレポート記事作成、仕事では新しい分野への取り組みなどバタバタしっぱなしで、ゆっくり音楽を聴く精神的余裕もなかった。きっとその反動だろう。

■ヴィヴァルディ 《ヴィオラ・ダモーレ協奏曲集》 イ・ムジチ合奏団
ヴィヴァルディの曲の中では1、2を争うくらい好きな曲、アルバム。深沈とした味わいがあり、何度聴いても飽きない。余りにも有名な「四季」など、この曲に比せば浅く、通俗とすら感じてしまう。《ラ・チェトラ》、《調和の霊感(幻想)》、《フルート協奏曲》および《バスーン協奏曲》の中の数曲ほか、もっと聴かれてもいいと思える作品は多い。

続いて、スペインのモーツァルトと呼ばれた、アリアーガの弦楽四重奏曲。一般にはあまり知られてはいないようだが、好み。17歳の頃の作品とは思えぬ。
■ アリアーガ 《弦楽四重奏曲集》 より第1番 ガルネリ弦楽四重奏団

この後は、普段よく聴く、ベートーヴェンのオンパレード。
■ ベートーヴェン 《ピアノ・ソナタ第30番》 ■ベートーヴェン 《ピアノ・ソナタ第32番》
30番をケンプ、32番をアラウの演奏で。ため息が出る。この二人の演奏は温かく、ベートヴェンへの愛がつまっていて、特に好きだ。更にベートーヴェンを2曲。
■ ベートーヴェン 《弦楽四重奏曲第14番》 バリリ弦楽四重奏団
バリリ、ヴェーグ(新・旧)、ブッシュ、カぺー、スメタナ(旧)、バルトーク、メロス、タカーチなどその時の気分でかけるCDは異なるが、今日はバリリ。すべての弦楽四重奏曲の中から1曲を選べと言われたら、躊躇いなくこの14番を選ぶ。これほど深遠で、魂を揺さぶられる四重奏曲は他にない。
■ ベートーヴェン《交響曲第6番「田園」》より第5楽章。
ジュリーニ指揮 ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団。このゆったりとしたテンポについていけないという人がいるかしれない。しかし、私には、あふれんばかりの<歌>が伝わってくる。一音一音慈しむように奏でられ、いつまでも終わらないでほしいとさえ思えてくる。

普段ならこのあたりで満腹なのだが、まだ足りない。続いて、
モーツァルト 《交響曲第39番》 《交響曲第41番「ジュピター」》 クリップス指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 (交響曲集 第21番~41番より)
39番ならベーム、ムラヴィンスキー、ブリュッヘン、41番ならベーム、ブリュッヘン、シューリヒト(ウィーン・フィル)がよく聴く演奏だが、このアルバム(21番~41番)は最近のお気に入り。
極めてオーソドックスなスタイルながら、滋味にあふれ、モーツァルトのシンフォニーの魅力を余すところなく引き出している。変ないじり方をしていないからといって、個性を欠くわけではない。その馥郁たる響きの美しさ。モーツァルトの交響曲を聴く回数が減ってきた私にとってこれは、近年の大きな収穫。自然とまた、他の演奏も(比較して)聴いてみたくなるからだ。

ブルックナー 《交響曲第8番》 ハイティンク指揮 シュターツカペレ・ドレスデン
一箱古本市の日当を店主とみきちより渡されたので、中古盤をディスクユニオンで購入。
ハイティンクは強烈な個性に欠け、面白くないという人が少なからずいる。確かにそういう面もある。が、素晴らしい演奏はやはり素晴らしい。1980年代録音のベートーヴェンの第9「合唱」(2種類)は堂々たる演奏、最近のシカゴ響を振ったマーラーの3番もいい。
そしてブルックナー。正直話題となったウィーン・フィルによる8番は琴線に触れるものが少なく、結局2回しか聴かなかった。
このドレスデンとのライブ。これがあのハイティンク?と思わせるような没入ぶり。特に第3、第4楽章。深い呼吸の中で思いの丈を込めている。ブルックナーの交響曲は時としてそのような演奏を拒否する厳しさを持っているのだが、違和感がない。オケも指揮者に応えるかのように熱い。それがライブ特有の乱れを所々生じさせてはいるものの、全く気にならない。
ドレスデンというと、「いぶし銀のような」音色のことがメインに語られてしまいがちだ。事実この演奏も、ドレスデンの響きを存分に味わえる。しかし、音がよければいいというものではない。そういう当たり前のことを再認識させてくれるアルバムだ。
金管の圧倒的な鳴りにブルックナーサウンドを満喫できるのは言うまでもない。特筆すべきは木管の繊細さ、弦の艶やかさ。強奏部分との対比もあって、弱音部ではその素晴らしさがいっそう際立っている。ブルックナー好きにも、そうでない方にも、お勧めの一枚。

渇いたスポンジが水を一気に吸収するかのように、音楽に浸った。
シュッツ、シャルパンティエ、ヴィクトリア、バッハなどの宗教音楽もじっくり聴いてみたくなった。

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不忍ブックストリート「一箱古本市」エピソード(3)

持ち込む本は100冊以内に収めるつもりだったが、結局120冊。設けた2つのテーマ「太宰と安吾」「日記と自伝」だけで合計41冊になってしまったこともあって。
みちくさ市と同じ出品は16冊。100冊以上、一箱古本市のため新たに出品。

■ 五味康祐『五味康祐 音楽巡礼』(新潮文庫) 1,200円
■ 五味康祐『ベートーヴェンと蓄音機』(ランティエ叢書) 1,000円
■ 辻壮一『バッハ』(岩波新書) 200円
■ 佐野洋子『神も仏もありませぬ』(ちくま文庫) 200円

とみきち屋番頭の一押しと宣伝しながら、手にとってはいただけるものの、引き取っていただくまでには至らず、気がつけば閉店1時間前の3時になろうとしていた。<このままでは看板倒れだな・・・>と焦りが生じ始めた頃、一人の年輩の女性がご来店。
『バッハ』を手にされたので、クラシック音楽に興味はお持ちなんだなと思える。その後、五味康祐の2冊を交互にパラパラとめくっては、いったん箱に戻し、また手にとられ。
ここぞとばかりに、五味康祐や本について蕩々と語ってしまう。

オーディオマニアではあるが、単にそれだけではなく、音楽を聴くことが生きざまにまで昇華されている。不幸な交通事故をきっかけに罪悪感が心の奥に棲まい、音楽を聴く時にいっそう大きな影響を及ぼすようになったこと。それが読者には息苦しく感じられることもあるが、「ほんもの」と「うそ」の音楽の違いとは何なのか、大きな示唆を与えてくれる本であるなどと。
お客様が根負けされたのかもしれない。しかし、特に『音楽巡礼』は、そう簡単に手に入る本ではなく、「読んで損することはありません。是非読んでいただきたい」という気持ちだけは、伝わったような気がする。
「じゃあ、読んでみようかしら」と言っていただいた時、胸の奥から熱いものがこみ上げて来た。また一人、読者が増えたことの喜びとでも言おうか。
心に残る本となってくれることを、ただただ願うばかりだ。
とみきち屋の店主、番頭ともバッハの音楽、佐野洋子の著作は大のお気に入りでもあるので、最後に佐野洋子も加えていただいたことに、不思議なご縁を感じてならない。

■ 工藤庸子『プルーストからコレットへ』(中公新書) 300円
■ 堺利彦『文章速達法(講談社学術文庫) 350円

なかなか箱の中の本を手にとろうとはなさらず、5分以上ご覧になっていた、30代後半と思える男性。正面からは見えなかった200円・300円本の小さな箱に気付かれたみたいだ。ここでも本には触れず、ひととおり目で確認される。そして・・・男性の顔に笑みが漏れ、それがだんだんと満面に拡がり、声には出さないのだが、嬉しくてしかたがないといった感じに。このコーナーに珍しい本など一点も置いていなかったので、店主と二人顔を見合わせ、ちょっとばかり引き気味になってしまった。
すると、わたしたちの気持ちをときほぐしてくれるかのように、男性が初めて話し始めた。
「いや~、ありましたねえ。実はこちらの店、今日で3回目なんですよ」
「???」
「最初が去年の秋、吉田知子」
「ああ、あの! 狙い打ちといった感じで、お買い上げいただいた」
「そうそう。次がみちくさ市、『フランス恋愛小説論』」
「そうでしたか。私が不在の時ですね。すみません、2冊まとめて出さずに。みちくさ市の前から、『プルーストからコレットへ』は一箱用と決めてしまっていて・・・」
「いいんですよ。でも何故かここは、確率が高いんだなあ」
どうやら、本の好みが似ていると仰りたかったようだ。
「それは、それは。そうですか、3回目ですか。ブログとかご覧になるんですか?」
「いや、そういうのはほとんど見ません」
ということは、当店が出店していることをご存知だったわけでなく、古本市が好きで足を運ばれた際、たまたま3回続けて当店に欲しい本があった、売れずに残っていたということなのか・・・。これもまた不思議な出会いに思えてならない。

それから、小一時間。ふらっと、その方がお見えになる。
「一回りして、最後にまた買おうと思って」と、素敵な笑顔。
「うれしいです。そんなふうに言っていただけるなんて」
「『藤村のパリ』、まだ残っています?」
「すみません。河盛好蔵、さきほど年輩の方がお持ち帰りになりました」
「ははは、やっぱり甘かったか」 (※この本は200円コーナーに入れてあった)
しばらく箱をご覧になってから、堺利彦『文章速達法』をお買い上げいただく。
また一人、古本市で再会したいお客様が加わった。

<打ち上げ会場にて>

一人の女性の方から受賞のお祝いの言葉をかけていただく。なんと、昨年のみちくさ市プレ開催で、当店から佐野洋子の本を購入いただいた方とわかる。その際、荒川洋治の本も出品しており、記憶に残っていたとか。そして、今回の一箱。
「荒川洋治さんの本買ったんですよ~。でもね、それが、ちょっと・・・(笑)」
このリアクション、ひょっとして、あの新潮文庫?
案の定バックから出てきたのは『ボクのマンスリー・ショック』(新潮文庫)!
「あり小屋さんで買ったんですよ。さっき早速読んでみたら・・・ねえ!」
「はいはい。○○○○○劇場のレポートなどが書かれていて、荒川さんの本では特異なものですからねえ。それ買っちゃたんですか(笑)」
「でも、けっこう面白い」
「今度あり小屋さんにお会いしたら言っておきますね。説明してあげなくちゃ~って(笑)」
こんな会話を交わせるのもまた、楽しい。

【 お買い上げいただいた本の中から一部をご紹介】 ※エピソードでは触れなかった本

■ 塚本邦雄『菊帝悲歌 後鳥羽院』(集英社)
■ 淀川長治・蓮實重彦・山田宏一『映画となると話はどこからでも始まる』(頸文社)
■ 牧野信一『父を売る子 心象風景』(講談社文芸文庫)
■ 後藤明生『首塚の上のアドバルーン』(講談社文芸文庫)
■ 後藤明生『四十歳のオブローモフ』(旺文社文庫)
■ 石川淳『夷齋小識』(中公文庫)
■ 辻邦生『モンマルトル日記』(集英社文庫)
■ 長谷川宏『同時代人サルトル』(講談社学術文庫)
■ 小林秀雄『近代絵画』(新潮文庫)
■ 坂口安吾『日本論』(河出文庫)
■ 鶴ヶ谷真一『増補 書を読んで羊を失う』(平凡社ライブラリー)
■ 吉本隆明 他 『親鸞』(平凡社ライブラリー)
■ 辻まこと『忠類図譜<全>』(ちくま文庫)
■ P.ハイスミス『変身の恐怖』(ちくま文庫)
■ ベルナノス『田舎司祭の日記』(新潮文庫)

【 お買い上げいただいた方々 】 ※順不同

たけうま書房さん/ふぉっくす舎 NEGIさん(2冊)/あいうの本棚さん(2冊)/退屈男さん/ayanokouzonoさん(2冊)/古書北方人さん/古書有古堂さん/あたまるブックスさん/古書、雰囲気。さん/鉱石書房さん/黒岩比佐子さん

そして、お名前は存じ上げませんが、とみきち屋にてお買い上げいただいた方々、とみきち屋にお立ち寄りいただいた方々に心より御礼申し上げます。
またどこかの古本市でお会いできるのを楽しみにしております。その時は、ぜひお声をかけてください。

店主:とみきち http://yomuyomu.tea-nifty.com/dokushononiwa/    
番頭:風太郎

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不忍ブックストリート「一箱古本市」 エピソード(2) 続・お客様と本

一箱古本市はある程度本を目当ての、本好きの方のご来店が多い。古本好きとなるとやはりおじさま(笑)。しかも当店、女性やこどもを惹きつける工夫なし、本はやや古め。自ずと女性のお客様が少ない。今回は珍しく3割が女性のお客様だったが、前回は2割ほどだった。
そこで、印象に残った女性のお客様のお話から。

■野原一夫『図説太宰治』(ちくま学芸文庫)400円
■野原一夫編『太宰治のことば-愛と苦悩の人生』(ちくま文庫)400円
■奥野健男『太宰治論』(新潮文庫)250円
■杉森久秀『苦悩の旗手―太宰治』(河出文庫)300円
■森山理文『微笑の受難者 太宰治』(現代教養文庫)300円
■長篠康一郎『太宰治 七里ヶ浜心中』(広論社)500円

今回、月並みだが<太宰と安吾>という特集を設け、19冊用意。せんべい缶に入れる。
年輩の女性の方が来店するや否や1冊引き出し、
「あら、やだ。こっちの方が安くてきれい。損しちゃったわ~」。
そしておもむろに、バッグから購入された本を取り出してこちらに見せる。

<まいったな・・・>
「それはたまたまで、うちが出品していなければ、今日入手できなかったもしれませんよ。そういうこともあるのが、こういった古本市の面白いところでも・・・・・」と話しかけるも、ほとんど聞いていらっしゃらない(笑) いきなり、
「私、太宰が好きなのよ」と太宰おばさま。
「そうですか。私も好きです」(中略)
「これお読みになられましたか?太宰と心中した山崎富栄によるものですが」と、『太宰治との愛と死のノート』(女性文庫)を紹介。
「ああこれねえ。日記でしょ。単行本で読んだわよ」
<30年以上も前に出版された単行本で!>と驚き。
「これ、面白いわね」と野原一夫『図説太宰治』を手にとられる。写真や草稿が入っているのがお気に召されたご様子。ここから一気に4冊手にかかえられる。
それから、「どっちか持っているのよ」。奥野健男『太宰治論』(新潮文庫)と奥野健男『太宰治』(文春文庫)で迷われる。
「同じ著者ですからねえ。装幀の色が違うのですが、覚えていらっしゃいませんか?」とお尋ねしても、思い出せないらしい。そこで、横で話しを聞いていた店主とみきちが、
「近くにお住まいでしたら、確かめていらっしゃってからでも。お取り置きしておきますので」
「それが近くにお住まいじゃないよねえ(笑)」。おばさま含め3人で笑ってしまう。
気をよくされたのか、一大決心。新潮文庫版を選ばれる。

直後、「あら、これ初めて」と『太宰治 七里ヶ浜心中』を手にとられ、これもお買い上げいただく。
計6冊 2,150円、太宰本ばかり。ご来店された時とはお顔が違う。こちらも嬉しくなる。
来店時損されたとお思いになっていらっしゃった額に相当する150円分サービスし、2,000円お支払いいただく。もう、お会計の際にはそのことも忘れてしまっていた(笑)。よかったよかった。
同会場の他のお店を廻られてから、最後にまた店頭で声をかけていただく。
「ありがとね~~」。すてきな太宰おばさまの話。

■ジャン・ジュネ『黒んぼたち・女中たち』(新潮文庫)700円

最初は、こんな感じに齢を重ねられるのは素敵だなあと思える女性3人でご来店。その後他のお二方とは別にお一人で再度来店。まず、シオラン『生誕の災厄』を手にされる。さきほどご友人達とにこやかに談笑されている時とは明らかに感じが違う。これはすぐに声をかけない方が賢明と、何冊かご覧になられているのを黙って見ていた。そして、ジュネの文庫へ。
「ジュネなんて、もう日本では読まれないのかしらねえ」
「どうでしょうか。私もそこらへんの事情には疎く・・・。新潮文庫は『泥棒日記』以外絶版のようですが、河出文庫からは確か『葬儀』ほか3冊くらい出ていると思います」
「日本語で読んでみたくなったの」
「???」
「パリにいたの。だからね。パリなら小さなところでもジュネの芝居がかかっているのよ」
この言葉、その眼差しにノックアウト。
雰囲気と、一度も崩れないピンと背筋の伸びた姿勢から、店主とみきちが、
「失礼ですが、舞台とかに出られるている女優さんですか?」と尋ねると、
「違う違う(笑)。でも、そう思ってもらえるなんて嬉しいわ」。
お買い上げ後、他のお二人と合流し会場を後にされる。その後ろ姿にしばし見とれてしまった。

■原一夫編著『ドキュメント ゆきゆきて神軍』(現代教養文庫)400円
■島尾敏雄『夢日記』(河出文庫)300円

この両書とも読まれたか、或いはご存知の方、この2冊をどのような方が購入されたか想像つくでしょうか。静かに箱に目をやり、手にとって。値段を確認後そっと差し出され、ひと言もなく去っていかれました。どう見ても、20代前半の女性。ただただ驚くばかりで、声をかけるタイミングを逸してしまう。お話ししたかったと悔いが残ります。

■アン・タイラー『ブリージング・レッスン』(文春文庫)

裏表紙の解説を読んでいらっしゃるご様子から、かなり興味を持たれているような。ご夫婦で来られた、40代と思われる女性。
「ピュリッツア賞を受賞したすてきな作品なのに品切れなんですよ。お勧めです」と背中を押してしまう。お買い上げ後、黒岩重吾『西成山王ホテル』『飛田ホテル』(角川文庫)に興味を示される。
<え、なんで・・・?アン・タイラーお勧めした直後になんと説明したらいいんだ・・・>
どや街、釜ヶ崎、西成、山谷、人間や男女の業などの言葉を織り交ぜ、「ぐちゃぐちゃどろどろの世界が描かれていますが、不思議なリリシズムを感じます」などと、しどろもどろの説明。結局、「面白そうだけど、なんか疲れそうねえ。今どろどろの世界は気分じゃないから遠慮しておくわ(笑)」。
なぜか、ほっと胸を撫で下ろす。

■深沢七郎『みちのくの人形たち』(中公文庫)600円
■エミール・ゾラ『獲物の分け前』(ちくま文庫)400円

それぞれ、中年の女性の方が購入。
深沢七郎『みちのくの人形たち』の存在はご存知ではなかったとのこと。まとめて深沢七郎の小説を読みたくても、『楢山節考』以外、新潮文庫版が新刊で入手できないのを残念に思っていらっしゃった。この方には、吉田秀和『レコードのモーツァルト』(中公文庫)も併せて買っていただきました。

■ヘンリー・ミラー『南回帰線』(新潮文庫)300円

 「『北回帰線』はないんですか?」と訊かれる。『南回帰線』は品切れだが、同じ大久保康雄訳の大文字新装版が新潮文庫で出ているので、新刊書店でも購入できることをご説明。また、南は河野一郎訳が講談社文芸文庫から出ているが、「正直、高いですよ」と伝える。「これもらいます」と購入いただく。

■エルンスト『百頭女』(河出文庫)350円

文字が極端に少なく、絵で埋め尽くされている物語に興味を持たれたご様子。
以上、若い男性。

■洲之内徹 『気まぐれ美術館』『帰りたい風景 気まぐれ美術館』『絵の中の散歩』 新潮文庫3冊セット 2,500円

購入された中年の男性ご自身はお持ちだが、「知り合いがずっとほしがっていたから、あげたくて」と。親しい方の探している本が頭に入っているなんていいなあと思える。
出品本とは別に今回、大原富枝『彼もまた神の愛でし子か 洲之内徹の生涯』(ウエッジ文庫)をカバーがけで用意。「ご購入いただき、ご希望の方にはプレゼントします。」とPOPに表示。3冊まとめてお買い上げいただく条件をつけてしまったため、せめてものサービスと思い。とても喜んでいただけた。
相変わらずの人気の高さを実感。<往来堂書店>さんが、「洲之内の文庫が品切れなんておかしいよ」とおっしゃられていたが、全くその通りだと思う。
その往来堂書店さんに、ヤコブセン『死と愛』(角川文庫)について、「この本なかなか見ないよねえ」と言っていただけたのは嬉しかった。最後まで引き取り手はなく、手にとってもいただけなかったので。

さて、ここまで書いても、まだ書き足りない、終わらない。
「もういいかげん、飽きた」という声も聞こえてきますが、記録としても残して置きたいので、次回エピソード(3)書きます(笑)。

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[ 閑話休題 ] 古書買って息抜き BIGBOX古書感謝市

「一箱古本市」初日の3日、古書現世・向井さんほか<わめぞ>の方々とはすれ違いで会えず、とても残念だった。それもあって8日(金)、古書現世さんが出店されている「BIG BOX古書感謝市」へ。

一箱終了後、2日間も休日があったというのに疲れから、ぼうっと蟄居。古本虫がざわざわと騒ぎ出していた。

高田馬場にあるA社訪問前に寄るも、向井さん不在。立石書店・岡島さんがいらっしゃったので、「先日みちくさ市ではお世話になりました」とご挨拶。A社にて1時間半近い打ち合わせ後、再び訪問。向井さんに会えて和む。忙しいにもかかわらず、手を休めてくれた向井さんとしばし歓談。

手に持っていた野呂邦暢『草のつるぎ』(文藝春秋)、赤丸羊三さんが出されていた本だと教えてもらう。美本・安価。「まだ残っていたんですね」と向井さん。確かに、もう開催2日目の午後。ついている。

ブックオフでは見られない良質の本が、ブックオフ並みの値段でたくさん出ている。ずっと探していた本もちょっと考えられない値段で手に入れられる。本好きの方にはお勧め。在庫もどんどん補充されています。

抱え込んだ本の清算のためレジへ。立石書店・岡島さんがカウンターに。「持てますか?」と訊かれ、「袋持ってますから」と答える。

「仕事先で<テロ>とか<絞首台>なんてタイトルの古書が見えちゃったら、まずいですよね~」と岡島さん。包んでもらい鞄の中にしまうことになった。と、その時、岡島さんの思わぬつっこみ。一瞬「???」。その後3人で大笑い。岡島さん、怪しすぎるけれどステキだ。その笑顔も。

シュールなブログ、「どこ行っちゃんうんですか~」と思わず声をかえたくなるような、ひと言コメント。(→こちら

向井さんが、ごくごく普通の人に思えてしまう自分は、間違っているのだろうか?(笑)

〔 購入本 〕

     野呂邦暢『草のつるぎ』(文藝春秋)

     東峰夫『オキナワの少年』(文藝春秋)

     小川忠『テロと救済の原理主義』(新潮選書)

     伊馬春都『櫻桃の記』(中公文庫)

     青山光二『青春の賭け 小説 織田作之助』(中公文庫)

     獅子文六 『青春怪談』(新潮文庫)

 書肆紅屋さんのブログ記事に触発されて。(→こちら

以下2冊目購入。

     河野多恵子『谷崎文学と肯定と欲望』(中公文庫)

     三浦雅士『主体の変容』(中公文庫)

     栗原雅直『川端康成 精神科医による作品分析』(中公文庫)

     フーチク 『絞首台からのレポート』(青木文庫)

 浪人時代、世界史の講師が紹介してくれて読んだ本。

わたし自身の戯曲も終わりにちかづいた。幕切れは書けない。わたし自身、どうなるかわからないからだ。これは、もう戯曲ではない。人生だ。

現実の人生には、観客はいない。すべての人が生活に参加している。

さあ、大詰めの幕があがる。

みなさん、わたしはあなたがたを愛してきた。敵に気をつけてください。

1903年ベルリンで死刑になる、チェコスロヴァキアの革命家にしてプロレタリア・ジャーナリスト、ユリウス・フーチクの作品。当時の背景、作品の内容を簡単に説明してくれてから、講師は最後の3行を暗唱した。その言葉に引きつけられ読んだ。自宅には1冊残っている、しかし、こんなところで目にするとは。

1977年に岩波文庫からも出ているが、私が読んだのはこの青木文庫版。古書現世さんから購入。100円。

明日、「一箱古本市」エピソード(2)書き上げます。

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不忍ブックストリート「一箱古本市」 エピソード(1) お客さまと本

「とみきち屋」の出店場所は映画保存協会の軒先、小さな公園。場所がわかりづらいというお客様の声もありましたが、緑に囲まれ、滑り台で遊ぶこどもたちの楽しそうな声が絶えず、催しもあり。さらに大家さんである映画保存協会さんがテーブルを貸してくださったので、お客様もかがむ必要なく、ゆっくり見ることができる。そんな恵まれた場所でした。

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当店の店構えは写真のとおり。メインの箱にやや小さめの箱を入れ、その上には歪んだせんべい缶をのせ、さらにその上に100円ショップで買ったかごをのせるという、見事な3段タワー!(笑)
きれいな紙で化粧をほどこすこともなく、本と本の区切りは段ボールをちぎっただけという部分もあり。「この缶がいいわね」とお褒めいただくこともございました。
写真は1番目が開店時、2番目が午後13:30頃、3番目が14:30時頃。最後はただ本が箱に入っているだけという感じになりました。

さて、とみきち屋恒例、お客様とのエピソード集、その1です。

■ 梅津時比古 『フェルメールの音』 (音楽之友社) 600円
開店5分後最初に来店されたお客様が購入。表紙にフェルメールの絵が使われ、装幀がきれいなのでビニール袋に入れ面陳。「詩のようにきらめく言葉の花束。クラシック音楽が身近に感じられ、心洗われます。」というPOPを貼っておいた。手にとられたので、「フェルメールとタイトルに入っていますが、美術の本ではないんです。クラシック音楽は聴かれますか?」と声をかける。
「あまり聴かないな」。「そうですか。文章が素敵なんです。もしよかったら、袋から出してみてください。」と続ける。パラパラと文章を読まれてから、「装幀も気に入ったからもらうよ」。
自分の愛読書を一番最初のお客様に引き取ってもらえ、いい一日を送れそうな予感。

■ 堺利彦『堺利彦伝』(中公文庫)300円 
■ クロード・アブリーヌ『人間最後の言葉』(ちくま文庫)500円
当店2番目のお客様、黒岩比佐子さんご購入。

■ イーヴリン・ウォー『ブライヅヘッドふたたび』[吉田健一訳](ちくま文庫)650円
■ ナボコフ『青白い炎』(ちくま文庫)900円

3番目のお客様。すうっとこの2冊をとり笑顔。「お探しでしたか」と声をかけると、「ずっと探してたんだよ。福岡から来てよかった。ありがとう。」
前日も一箱を廻られているのか気になって尋ねたら本日上京とのこと。喜んでいただけてよかった!
今や仙台、名古屋、広島、福岡へと拡がっている一箱古本市。福岡から来られたと聞いて、その反響ではないのかなと思ったりする。

■ 足立巻一『虹滅記』(朝日文芸文庫)600円
■ 足立巻一『やちまた 上・下』(朝日文芸文庫)1,200円
ブログでも伝え、目玉商品のひとつだったものの、果たして足立巻一の作品を引き取っていただけるか、半信半疑だった。『やちまた』を松岡正剛が千夜千冊でどう取り上げているかに触れPOPも作ったのだが、結果的にはその必要もなかったようです。

『虹滅記』。「お二人のブログ読んでますよ」と声をかけられ驚く。でも知り合いではない。私の方は、あと10日で(ブログを始めてから)丁度半年になる程度なので実感が湧かない。
でも、ブログを見てお越しいただけたのは嬉しい。『やちまた』は持っていて、『虹滅記』をお探しだったとのこと。こうして喜んでいただけたのだから、ブログで前宣伝してよかったのだと思える。

『やちまた』はその後来られた別の男性が購入。この方は『虹滅記』と合わせ3冊所有されていたのだが、家の大整理をした際、『やちまた』の下巻のみ紛失してしまったらしい。下巻のみ売るというわけにはいかず恐縮していたら、「下巻はなかなか見つけられないし、高いしね」と快く上・下セットをお買い上げいただく。
この本の紹介はとても私の手に負えるものではありません。興味を持たれた方は松岡正剛の千夜千冊・遊蕩編 第1263夜をご覧ください。(→こちら) 

■ 徳川夢声『夢声戦争日記』(中公文庫・全7巻)1,700円

今回の出品本の中で、とりわけ思い入れの強い本。
少なくとも私が廻る古書店ではほとんど見かけない。かといって、目の玉の飛び出るような古書価がついているわけでもない。不思議な本です。
そのせいか、購入いただけるまで10数人の方が興味深げに、一番上に別置きしておいた第7巻を手にとり、パラパラと読まれていました。すべて男性です(笑)。
素人ゆえ、値付けにもかなり迷い、全く自信なし。
加えて7冊セットですから、同じ7冊でも、色々な本のまとめ買いとも違います。
で、どなたにご購入いただいたかというと・・・
何となんと、足立巻一『やちまた 上・下』を購入していただいた30代前半の男性!
一旦清算を終えられた後、手にとって見ていらっしゃるご様子が、<一押しすればもしかして・・・>という感じ。
<でも、上巻持っているのに、上下巻買っていただいたばかりだしなあ>と心の中では思いつつ、
「うちの今日の目玉なんです。今日はどうしてもこの本をどなたかに持ち帰っていただきたくて」と、(先方には)わけのわからないことを言ってしまう(笑)
するとニコっと笑って、
「じゃあ、いただきます」
<なんという素敵な笑顔>
「ありがとうございます!!!」と店主とみきちと共に小躍り。

2 ■ シュレーディンガー 『わが人生観』(ちくま学芸文庫)
■ ホフマンスタール 『チャンドス卿の手紙』(講談社文芸文庫)
■ ユリイカ 臨時増刊 『シュルレアリスム』(青土社)
■ 出口裕弘『太宰治 変身譚』(飛鳥新社)『坂口安吾 百歳の異端児』(新潮社)ほか 8冊 計3,000円
 
昨秋の一箱でハイデガー『ニーチェ』ほか5冊ほど購入いただいたのがこの方との出会い。とても印象に残っていたので、「みちくさ市」プレ開催の際にまたお越しいただいたので、「その節はありがとうございました」というような感じでお声をかけると、先方もこちらのことを覚えていらっしゃいました。バシュラール『夢想の詩学』(ちくま学芸文庫)を「これだよ、これ」と言ってお買い上げいただくとともに、2回来店いただき薄田泣菫ほか5冊ご購入。
その後、「月の湯古本市」に遊びに行った際、ばったりお会いする。ご挨拶させていただくと、冗談も飛びかい、「Hです」と名前をまで教えていただいた。
そして、偶然は続く。3日に下見を兼ね一箱を廻っていると、またもやばったりお会いする。ここぞとばかりに、
「こんにちは~。お世話になっております。明日もお見えになられるんですか?」
「来るよ」
「そうですか!うちは明日映画保存協会で出店します。是非是非お越しください。」
「そうなの。じゃあ朝一番に行こうか。」
「ありがとうございます。Hさんに買っていただけそうな本を、みちくさ市プレ開催以来ずっと考えていました(笑)。お見えになられるということなら、今夜熟考を重ねます。あっ、お持ち帰り用の袋も用意させていただきますね。」
「トラック一台用意しといて(笑)」
「おまかせください!」

そして4日当日、11時半過ぎ。Hさんの登場。すでに片手には本でパンパンに膨らんだ紙袋が。
「あれ~。一番にお越しいただけると思ってお待ちしておりましたのに。もうHさん好みの本はないかもしれませんよ~(笑)」
「じゃ、帰ろうかな~。」
「そんな~。ご覧になってください。」
Hさんが本を見始めたら、中途半端に声をかけないようにしている。本を探される時は真剣なまなざしなので、邪魔をしてはいけない。
早速、シュレーディンガー 『わが人生観』とホフマンスタール 『チャンドス卿の手紙』を手にとられる。最低2冊が目標だったので、その瞬間<ビンゴ!>。次にユリイカ 臨時増刊 『シュルレアリスム』。ひそかにガッツポーズ。これでもう今日は大満足。
その後、袋詰めにした同一作家の単行本と文庫本の2冊セットを指さされ、
「強引セットだね。」
「あれ~。やっぱりわかっちゃいましたか。お恥ずかしいことにコンセプトがありません。(汗)」
「でも、もっと強引なセットが他の店にあったよ(笑)」

荷物が邪魔で見づらそうなので、袋をお預かりする。

それから、蓮實重彦の文庫、出口裕弘の太宰と安吾本を手にとられる。
「太宰の方は品切れですが、安吾はそうでないので、かなり安く設定してあります。」
「そう。じゃあ、これもいっしょに。」
「ありがとうございます。」
しばし歓談。
Hさんの真剣なまなざしが和らぎ、「今日はこれで勘弁してください」
「ええっ!? Hさん、お約束どおりトラック用意してあるんですけど(笑)」

清算のため、箱の横側に廻られると
正面にはその存在を表示していなかった小さな200円、300円箱を発見される。
一瞥して満面の笑みをたたえられ、さっと2冊を引き出される。
「僕のために用意してくれたの?」
「いえいえ、たまたま今朝バッグの中に追加してきました(笑)。」
「○○○、僕のツボなんだよ。買わないわけにはいかないね」とおっしゃって、表紙の著者名を指さされた。
「そうでしたか。喜んでいただけて嬉しいです。」
結局合計8冊もお買い上げいただいた。
底が抜けないようにと、袋を二重にしてお渡しする。
その後、同じ会場の他店の一箱一箱を丹念にご覧になっているお姿が見えた。
○○○が誰かは、とみきち屋の企業秘密となりましたので、公表できません(笑)

これだけお買い上げいただき、かつ、こんなに楽しませていただいていいものかと思ってしまう。
たぶん、お許していただいているのだろう。
ぜひ、またお会いしたい。              (つづく)

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不忍ブックストリート「一箱古本市」で思いがけない受賞

5月4日(月・祝)、「第8回不忍ブックストリート 一箱古本市」において映画保存協会さま の軒先(公園)に出店し、黒岩比佐子さんから「黒岩比佐子賞」を頂戴いたしました。

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賞品として、夏目漱石『道草』(大正三年九月二十日發行 岩波書店 壹圓九拾五銭)、黒岩さんのご著書、 『明治のお嬢様』(角川選書)。夏目漱石といえば猫ということで、かわいい子猫の写真が載っているメモ帳(小さなハムスターに頭をちょこんと凭れて眠っています)をいただきました。
貴重な、そして素敵な品々、ほんとうにありがとうございました。

『道草』は我が家初の、いわゆる黒っぽい本となりました。しかも漱石。装幀に関しては素人なのでうまく表現できないのですが、表紙まわりは布製で、背表紙の文字が浮かび上がっています。
『明治のお嬢様』は、当時の写真、絵、図版、広告などがふんだんに載っていて、興味をそそられます。もちろん、サイン入り。大事に拝読させていただきます。メモ帳はもったいなくて使えません。

正直申し上げると、黒岩さんの著書は『音のない記憶-ろうあの天才写真家 井上孝治の生涯』(文藝春秋)と、第26回サントリー文芸賞を受賞された『編集者国木田独歩の時代』(角川選書)の2冊しか読んだことがありません。しかも、つい先日までお顔を存じ上げませんでした。

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先般参加した「第1回みちくさ市」の際、当店「とみきち屋」から本をご購入いただいた方の中に、特別なオーラを放つ素敵な方がいらっしゃったと、当ブログで書きました。
「いったいどんな方だろう」と、とみきち(妻)と二人で話しておりました。
数日後、ほかの方のブログを読んでいるうちに、「ひょっとしたら黒岩さん?」と思い始め、考えれば考えるほど黒岩さんに違いないと思うようになりました。
そしてついにネットで検索。黒岩さんの写真が載っている記事を見つけ、確信へと変わりました。「今度お会いできたら声をかけさせていただきたいね」と、二人。何という脳天気ぶり(笑)。

そして今回の「一箱古本市」。
なんと、その黒岩さんが朝一番とも言える時間にお見えになりました。
二人とも緊張~!!
それでも勇気を振り絞って、「失礼ですが、ひょっとして黒岩さんでいらっしゃいますか?」とお尋ねすると、「ええ」というお答えでした。
「堺利彦の本を2冊も出されているなんて珍しいですね」と言っていただいたのですが、何とお答えしたのか、緊張していたため覚えていません。現在堺利彦について書いていらっしゃるそうで、とみきち屋のテーマの一つ「日記・自叙伝」の中から『堺利彦伝』(中公文庫)をお買い上げいただきました。もう1冊の、テーマとは関係なく出していた『文章速達法』(講談社学術文庫)はすでにお持ちだとのことでした。
去られる間際に、「今日はこれから全部のお店を回らなければならないので」とおっしゃられたような。「もしかして審査員のお一人なのかな」と一瞬思ったものの、お会いできたことが二人とも嬉しくて、「素敵な方だねえ」と興奮。
その余韻も冷めやらぬうちにナンダロウさんがお見えになったので、「今し方黒岩比佐子さんにお会いしました」とお伝えしたら、「えっ、こんな早い時間から廻ってくださってるんだ。今回審査をお願いしたんだよ」と。

私たちの古本市初参加は、昨秋の不忍ブックストリート「一箱古本市」でした。どんな催しなのかも全く知らず、素人でも参加できるというだけで、何気なく「ちょっと参加してみたくなった」と、とみきち(妻)に漏らしたのが、きっかけです。

本の好きな方と話したり、本を買ったり選んでいる時の様子を、いつもと違う売る側になって、見たり感じたりできることがあまりにも楽しくて、あっという間の5時間でした。咋秋は賞の選考は無しとのことだったので、緊張から疲労困憊、多くの本を引きずって持ち帰ることも目に見えており、終了後の懇親会のような集まりは失礼させていただいたのでした。

数日後、南陀楼綾繁さんのブログに、「ナンダロウ賞は<とみきち屋>さんに」と書かれていたのは驚天動地の出来事でした。何故なら、当日廻って来られたナンダロウさんに、「お世話になっています」とご挨拶はしましたが、特にお話もできませんでした。両隣の「あいうの本棚」さん、「もす文庫」さんはご存知のようで、立ち止まって会話を交わされ、しかも気に入られたものを購入されたのを羨ましく眺め、「うちの本は魅力がないのかなあ」と思っていたからです。

我が箱に凝らした工夫らしき事といえば、複数所有している本を選んで3つほどのテーマに分類し、それを小さなかごや箱に分けて並べた程度。まったくもって自分好みの選書。デザイン的な美しさ皆無でした。
そういうところがかえってよかったのかな、と思うことができましたし、ナンダロウさんご自身の本の嗜好と関係なく選んでいただけたことも、たいへん嬉しく感じたものでした。

今回で2度目の参加となる「不忍ブックストリート 一箱古本市」。各賞の発表を兼ねた打ち上げに出席したのは、他のお店も廻ったうえで、どんな方が受賞されるのか確かめたい、という思いがあったからでした。残念ながら、今回もまた他の出店場所を訪れる余裕が無く、受賞された方のお店を実際に見られませんでしたが。昨秋、賞をいただいた自分たちは対象外、とハナから思っていましたので、ドキドキ感は全くなく、リラックスして、ぎっしり満員の会場に座っていました。

昨秋の一箱で知り合い、その後も親しくさせていただいている「あり小屋」さんが新潮社の「yom yom賞」を受賞されたことは、自分たちのことのように嬉しくて、妻と二人「やったね!」と、少し興奮。
その後、「古書ほうろう」の宮地さん、東京堂書店勤務の畠中理恵子さん、私もご著書をよく読んでいる豊崎由美さん(恥ずかしいことに、会場で豊崎さんを見かけた際、「あの方はどなただろう」と二人で話していたのです。)からの賞などが続々と発表されていきました。

そして、黒岩さんの登場。
「先週、みちくさ市でナンダロウさんにお会いしたら、急に、"来週の一箱で審査員をやって"と頼まれました」。
「それで、初めは私の好きな黒い本ばかりを出されているお店があればそこに・・・」
<それはそうだろうなあ>
「でもそういうお店は残念ながらなく・・・」
<そんなお店が一箱に出てきたら確かに驚異だ>
「買う立場で選べば、好みの本を安く買えるお店がいいお店なんですね」
という黒岩さんの言葉に、会場が和む。
それを受けて、「立場が変わると、確かに見る目が変わりますね」とナンダロウさん。

<ではいったい、今回は何を基準にされたのかな>という気持ちになったところで、前夜、ほとんど寝ていないために、聞いているつもりでしたが、記憶が切れ切れです。しかも、勝手に自分たちは賞の対象外と決めつけていたこともあり、正確さには欠けますが、選考理由を次のようにおっしゃったたような覚えがあります。

「本を一冊一冊考えて選んで並べている、と感じたお店を選びました」。

ナンダロウさんが「なるほど。では、その受賞者はどなたですか?」
黒岩さん「映画保存協会に出店された『とみきち屋』さんに・・・」。

その瞬間、二人で「へっ??」と顔を見合わせてしまいました。

一箱までの数日間、我が家の話題を独占していた黒岩さんご本人から賞をいただけるなど夢にも思っていなかったので、完全に舞い上がってしまいました。コメントを求められたのですが、何をしゃべったのか思い出せません。

「一冊一冊を考えて選んだ」

無理やり詰めても100冊も入らない小さな箱に、どんな本を選んで並べるか。
その時点から一箱は始まっています。
迷いに迷って選びます。
そういう思いが伝わる箱になっていた。

賞をいただいたことはもちろん本当に光栄ですが
黒岩さんが、並んだ本からそういう思いを感じ取ってくださった。
そのことが嬉しくてなりません。

一日経ち、頂戴した本やメモ帳を手にしては、喜びが実感として湧き上がってきます。
黒岩比佐子さん、ほんとうにありがとうございました。

お客様や本にまつわるエピソードは、次回から2回ほどにわたって紹介させていただきます。

3日・4日それぞれの各賞及び売上げ総数、金額などが「しのばずくん便り」に発表されました。興味のある方はこちらをどうぞ。

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第8回 不忍ブックストリート「一箱古本市」無事終了

3日・4日両日とも雨には降られず、概ね穏やかな天気に恵まれ、「一箱古本市」を満喫いたしました。
3日に出店場所の下見を兼ねて訪れた時の様子はとみきちが書いています。こちらです。

実行委員、助っ人の方々、場所を提供してくださった大家さん、お越しいただいた多くの方々にこの場を借りて御礼申し上げます。ほんとうにありがとうございました。

また、映画保存協会でご一緒させていただいた「鉱石書房」さん、「料理書専門古本屋 onakasuita」さん、「どすこいフェスティバル」さん、「あたまるブックス」さん、お疲れさまでした。
みなさん穏やかな、素敵な方々ばかりで、楽しい一日を過ごすことができました。お互いのお店を何度も行き交いながら、話しを弾ませる光景がとても心地よいものに感じられました。
また機会があったらご一緒したいと思える方々ばかりでした。

当日はわめぞのNEGIさん、たけうま書房さん、ドンベーブックスさんらも助っ人をされており、ただ参加するだけの私どもにもあたたかい言葉をかけていただき、恐縮の限りです。

春と秋の谷根千の風物詩となった「一箱古本市」も、多くの方々の支えがあってこそという感をいっそう強くいたしました。

終了後の打ち上げイベントの際には、黒岩比佐子さんから賞を頂戴いたしました。
これはもう本当に思いもよらなかったことで、今なお信じられないというのが正直なところです。すぐにでも黒岩さんについて書きたい気持ちでいっぱいですが、番頭・風太郎30分の仮眠、店主・とみきち1時間半睡眠で「一箱」を迎えたため、からだも頭も限界です。

あらためて記したいと思います。

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<一箱古本市> 5月4日(月・祝)出店 「とみきち屋」出品本ご紹介

幅38㎝奥行き32㎝はふつうのみかん箱の大きさ。みちくさ市に比べるとかなり小さなスペース。その中でどんな世界をつくるか。大いに悩むが、試行錯誤を繰り返しながら一箱を築いていくのも、また楽しい。
「不忍ブックストリート 一箱古本市」5月4日(月・祝)、当店 「とみきち屋」の出品本の一部をご紹介します。

■ 五味康祐 『五味康祐 音楽巡礼』 (新潮文庫)
■ 五味康祐 『ベートーヴェンと蓄音機』 (ランティエ叢書)
五味康祐のクラシック音楽関連本は何と言っても、「とみきち屋」番頭・風太郎の一押し。ストックは底をつきそうになって来たものの、やはり出品することにしました。現在五味さんのクラシック音楽本は新刊では入手できません。お探しの方は是非この機会を。

■ 洲之内徹 『気まぐれ美術館』ほか新潮文庫3冊セット
■ 足立巻一 『虹滅記』 『やちまた 上・下』 (朝日文芸文庫)

< 日記・自伝特集 >より
■ 『ドストエフスキーの日記』 (岩波文庫) 全6冊セット
■ 徳川夢声 『夢声戦争日記』 (中公文庫) 全7巻セット

< 太宰と安吾 > 彼らの自著ではなく評論ほか
山崎富栄、太田静子、杉森久英、森安理文、矢代静一、野原一夫、奥野健男らによる品切れ文庫中心。

〔 ちくま文庫 〕
■ イーヴリン・ウォー 『ブライヅヘッドふたたび』 [吉田健一訳]
■ パトリシア・ハイスミス 『変身の恐怖』[吉田健一訳] ほか。

出店場所が映画保存協会なので、■淀川長治・蓮実重彦・山田宏一『映画となると話はどこからでも始まる』(勁文社)も出品します!

小説(日本・海外)、思想、評論、クラシック音楽などの品切れ文庫、多く揃えました。
単行本も含めてですが、後藤明生、藤枝静男、塚本邦雄、林語堂、ナボコフ、シオランなどもあります。
みなさま是非、お越しください。

<不忍ブックストリート 一箱古本市>

「とみきち屋」 5月4日(月・祝)出店
 
● 時間 11:00~16:00 (雨天決行)
● 場所 映画保存協会

「しのばずくん便り」のサイトに、踏破ルートが発表されています。(→こちら)
「一箱古本市MAP」を入手すればより楽しめるのではないかと思います。MAPを入手できるお店一覧はこちらです。
3日・4日の出店者一覧はこちらです。

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感慨、深く。 みちくさ市アルバムと武藤良子個展 「耳朶とスプーン」

心待ちしていた「みちくさ市」のアルバム(写真集)が早くもUPされた。
「旅猫雑貨店」金子さんによる作品集。

「第1回 鬼子母神通り みちくさ市」スライドショー。http://f.hatena.ne.jp/slideshow/wamezo/09-4-26%20みちくさ市/rss

前から金子さんの撮る写真がとても好きなのだが、今回の写真にも感動。今すぐあそこに戻りたいと思ってしまう。
風景の切り取り方、アングル、対象をとらえるタイミングが素晴らしいのは言うまでもない。
畢竟、人の心を動かすのは、撮る人の目と心だということを改めて感じさせてくれた。撮影された金子さんの愛情があふれています。

人はもちろん、街、本、雑貨、棚、看板などすべてのものが「いのち」を与えられ息づいている。
音はなくとも雄弁に語りかけてくる。短編映画を観ているかのように。
アップされているだけで122枚ということは、実際その2倍、ひょっとしたら3倍撮られ、その中からセレクトし、編集されているはず。その手間たるや想像しただけで気が遠くなってしまう。
金子さん、ほんとうにありがとうございました。

みちくさ市翌日、仕事の合間、武藤良子個展「耳朶とスプーン」に足を運ぶ。
静かな空間の中で、腰掛けて絵を見ながら時を忘れる。
一点一点に目を凝らすと、作者の「創造」に携わる苦悶の跡が残っているようにも感じられるのだが、見ているうちに不思議な感情に充たされてくる。懐かしいような、何かやわらかいものに包まれるような。
ブルー、グリーンの独特な色使いは多くの人の目を惹いたに違いない。
一方モノクロの画は、黒地と白地が絶妙のバランスを保っている。
そして、白地の中に描かれた黒い線の何と繊細なこと!思わず息を呑んでしまった。
正面左側に飾られていた印象的な豚の横顔。
「何と哀しい目をしているのだろう」と最初は感じられた。
ところが、しばらく見ていると、その豚を見つめる描き手のやさしい目が浮かび上がってきた。

素人の印象に過ぎないが、そんなことを感じながら素敵な時間を過ごさせてもらう。

武藤良子さんのことは、昨年のみちくさ市プレ開催の少し前に、いろいろな方のブログで知った。
今なお、様々なブログでその強烈な個性や言動が話題となっている。
でも、武藤さんがふっと立ち止まって独特の視線で自然を見たり、人との関わりの中で自分を表現するさりげない言葉が温かく、惹かれる。
個展を拝見して、繊細な人という印象はさらに強まった。
ものを創り出す芸術家というのは、傍から見ると相矛盾するものを抱えているようで、実は混沌としながらも、その両極端が在ってこそ創作を続けられる、それを創作のエネルギーにしているようなところがある。
武藤さんに、絵やイラストを描いていた父の姿を、知らないうちにダブらせているのかもしれない。
多くの方々が個展に訪れたのも、絵描きである武藤さんに触れたいからだと思う。
武藤さんのますますのご活躍を祈っています。

みちくさ市が終わったというのに、我が家の惨状は改善されるどころかさらに酷くなったような。

とみきち 「いったい何年経ったら片付くの! 好きなことはしてもいいけど、部屋を片付けるのが条件だったでしょ。このままだったら、私は一箱には出ないからね!」
風太郎 「それは脅迫だ」
とみきち 「これが脅迫だと言うなら、部屋の写真をUPしてみなさんに見てもらって判断してもらいましょう」
風太郎 「・・・・・」

さてさて、「不忍ブックストリート 一箱古本市」まであと数日しかないのに、作業はまだ5割も終えていない。明日は丸一日、約束の片付けと準備に精を出さねば(汗)。

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