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ついに発売!! 山田詠美編 『幸せな哀しみの話』 心に残る物語―日本文学秀作選(文春文庫)

この日を鶴首して待っていた。山田詠美が独自に選んだ日本文学作品のアンソロジーがようやく出た。『幸せな哀しみの話』(文春文庫)。文春文庫創刊35周年企画「心に残る物語―日本文学秀作選」のひとつ。
この企画、第一弾は2004年12月宮本輝編『魂がふるえるとき』、続く第二弾が2005年5月浅田次郎編『見上げれば星は天に満ちて』。山田詠美の名が三番手として挙がっていたので楽しみにしていたものの、半年経っても、一年経っても発売されないので諦めてしまっていた。それだけに喜びもひとしお。

小説のために磨かれた大人の舌にこそ相応しい、幸せな哀しみの味を選ばせていただいた。確かな言葉が、言いようのないやるせなさを引き立てる、美味なる綴れおりの数々である。
(略 山田詠美による作品解説)
どの作品にも、大人の手練の舌と共に、子供の純朴で綺麗なままの舌も、ちゃんと残されているような気がするのである。読み手であり、書き手であるというのは、そういうことなのかもしれない。酸いも甘いも噛み分けるには、あえて噛み分けない手管も必要だということだ。それを駆使した小説の数々である。読んでいただければ、必ず味覚は進化する。

あとがきに書かれた山田詠美の言葉が、掲載された作品に共通するエッセンスと味わいを尽くしている。各作品の短評も秀逸。
以下が掲載作品。

● 中上健次 『化粧』
中上健次の小説はすべて読んでいる。これは中上初期の作品で、「死」のイメージが色濃く漂い、描かれる情景の象徴となる色彩も生死のあわいを巧みに表現している。叙情的とは決して言えないが、中上特有の暴力的な発露もなく不思議な味わいを持つ作品となっている。

● 半村良 『愚者の街』
直木賞を受賞した『雨やどり』の中の一編である。私は半村の酒場シリーズを好む。バーテンダー仙田の諦念を湛えた静かで、優しい目。が、矜持も捨てていない風情がたまらない。続編と言える『たそがれ酒場』もいい。短編集『忘れ傘』も半村ならではの作品だ。

● 赤江瀑 『ニジジンスキーの手』 ● 草間弥生 『クリストファー男娼窟』
● 遠藤周作 『霧の中の声』
この3編は未読。赤江と草間の文章は一度も読んだことがない。遠藤周作が怪奇小説を書いていたとは知らなかった。いずれにせよ、山田詠美が選んだのだから楽しみだ。

● 河野多恵子 『骨の肉』 ● 庄野潤三 『愛撫』
河野多恵子の小説は好みとはいえないが、『骨の肉』は代表作ともいえる秀作。
庄野潤三といえば『プールサイド小景』『静物』『夕べの雲』など、衆知の名作がすぐに思い浮かぶが、『愛撫』は文壇デビュー作。私は、講談社文芸文庫『愛撫 静物』が2007年夏に発売された時に初めて読んだ。

● 八木義徳 『異物』
山田詠美は今回と同様のアンソロジー集、『せつない話』(光文社文庫)の中でも八木義徳の作品を選んでいる。そこでは、八木の名作中の名作『一枚の繪』を。八木義徳はもっと注目されていい作家ではないかと思う。福武文庫がなくなってしまったためとはいえ、『家族の風景』も文庫では読めないなんて。『私のソーニャ 風祭』(講談社文芸文庫)も品切れになってしまったようだ。

ついでという訳ではないが、宮本輝編『魂がふるえるとき』、浅田次郎編『見上げれば星は天に満ちて』についても少々。
宮本輝はさすがと唸らせる選であった。開高健『玉、砕ける』、川端康成『片腕』、永井龍男『蜜柑』、泉鏡花『外科室』ほか、読書好きなら必ず読んでいるはずのものがほとんどではある。しかし、わずか5ページ弱しかない、川端康成の『有難う』。1ページ(400字小説)で描かれた井上靖の『人妻』を選んだところに宮本輝の作家としての目の確かさ、凄みを感じる。お薦めです。

期待が大き過ぎたのか、浅田次郎の選はもうひとつだった。巻末の作品評はさすがだが。浅田は自ら書く以外は、やはり書評がすばらしい。そのことについては、以前当ブログでも書いた。興味ある方は(→こちら

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