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〔新書雑感(2)〕 『新書大賞2009』(中央公論新社)

「いま最も読むべき46冊が決定」と銘打った『新書大賞2009』(中央公論新社)で選ばれた2008年発行、新書ベスト10は以下のとおり。

1位(16票) ①『ルポ 貧困大国アメリカ』 堤 未果 (岩波新書)
2位(9票)   ②『強欲資本主義 ウオール街の自爆』 神谷秀樹 (光文社新書)
        ③『できそこないの男たち』 福岡伸一 (講談社現代新書)
         ④『電車の運転』 宇田賢吉 (中公新書)
5位(8票)  ⑤『白川静』 松岡正剛 (平凡社新書)
6位(7票)  ⑥『アダム・スミス』 堂目卓生 (中公新書)
7位(6票)  ⑦『4-2-3-1』 杉山茂樹 (光文社新書)
8位(5票)  ⑧『悩む力』 姜尚中 (集英社新書)
         ⑨『不機嫌な職場』 高橋克徳ほか (講談社現代新書)
         ⑩『閉塞経済』 金子勝 (ちくま新書)

新書に造詣の深い書店員30人、新書編集部30人の合計60人が、おすすめを5冊選び、投票した結果。(編集部は基本的に編集長、自社作品への投票はなし)
上記ベスト10の中で、売上げがベスト20に入っているのは⑧が3位、①が4位、⑨が11位、②が18位である。ちなみに、1位『女性の品格』(※2007年発売)、2位『親の品格』。③が20位内に入っていないのは、2008年10月発売のためだろう。

アンケート対象60名では少なすぎるものの、各書の内容説明と寄せられたコメントを読むと、まあ妥当なところか。①②⑥⑨⑩と半数が現在の経済不況を反映した題材だ。
(ちなみに私の既読書は①②⑥)

①『ルポ 貧困大国アメリカ』は、湯浅誠『反貧困』(岩波新書)と一緒に読んだが、問題への真摯な取り組み方、詳細なデータ、多くの生々しいインタビューも載っており、質の高いルポである。サブプライムローンのあまりにも安易で、恐ろしいシステム。ジャンクフード、ファストフードに頼らざるを得ない貧困層に見られる肥満。学費免除、学費ローン利用の躓きが入隊(兵役)への道となっている現状。高額医療費による中間層の破産。(急性虫垂炎による一日の入院費が100万円を超える!) 年間750万円保証と甘い言葉で勧誘する派遣会社、実はイラクでの過酷な状況下の仕事。民間の請負会社による傭兵派遣もまた、貧困層をターゲットにしている。

新自由主義による市場原理に歯止めをかけられなかった結果招いた貧困、格差は、形態が違おうとも、流れは日本と変わらない。

著者は『新書大賞2009』の中でインタビューに答え、次のように語っている。
「民営化や規制緩和を否定する気はありませんが、それを教育や医療、国民の最低限の暮らしを守る部分にまで持ち込んだ時、国としての土台は崩壊する」「アメリカの現状を合わせ鏡にすることで、日本にはまだ選択肢があることに気づいてほしい」。

③『できそこないの男たち』は、2008年に大賞(1位)となった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)の著者による作品なので、その勢いやまずといったところか。確かにこの人の文章は読ませる。

④『電車の運転』は、コアな層狙い打ち戦略がはまったのだろう。40年運転士として勤務した著者による作品は、マニアには堪らないものらしい。

⑤『白川静』は、大著『松岡正剛 千夜千冊』(求龍堂)で世間の度肝をぬいた著者による本ゆえ、売れないわけがない。しかも、全体像を把握しにくく、入門書がこれまでになかった没後2年の白川静が対象。 

⑦『4-2-3-1』は、サッカーのフォーメーションを表した数字がタイトルになっている、高名なスポーツライターの著書。W杯予選中ということも後押しとなったのか。

個人的にサッカーは大好きだが、このところの日本代表の試合は、良くも悪しくもドキドキさせてくれないので、以前ほど熱心に観戦できない。(海外の一流チーム同士の対戦は次元が違う) 加えて、日本サッカーに少なくとも今後10年、世界レベルのフォワード、サイドバックが現れるとはとうてい思えないので、読んでみようという気持ちになれなかった。

⑧『悩む力』もある意味、世相にマッチしたのだろう。解説によると、人間の実存的問題にからめ、「他者との相互承認の必要性」を説いているらしい。著者のテレビでのソフトで知的な語り口からして、女性層を取り込んだに違いない。私自身本書に興味はないが。
姜尚中なら、小熊英二との共編『在日一世の記憶』(集英社新書)を読んでみたい。

新書の特性を生かしながら頑張っていると思えるが、「再読に耐える重厚な本は極めて少ない」という印象は拭えない。

本誌には、永江朗と宮崎哲弥による対談記事「新書でしか出せない本がある!」も載っている。
永江は以前のとんがったところが影を潜め面白みに欠ける。宮崎は新書の評に限って言えば、偏りがあることを差し引いても、かなり鋭い。宮崎の著書『新書365冊』(朝日新書)は、坪内祐三『新書百冊』(新潮新書)と共に新書解説本としては大きな収穫だった。
その宮崎がベスト5に挙げている中の、野中尚人『自民党政治の終わり』(ちくま新書)と下條信輔『サブリミナル・インパクト-情動と潜在認知の現代』(中公新書)には興味をそそられた。

前者は目利きが選ぶジャンル別3冊「日本政治」の記事で、片山善博も推している。

後者は、以前読んだ『サブリミナル・マインド-潜在的人間観のゆくえ』(中公新書)と『「意識」とは何だろうか-脳の来歴、知覚の錯誤』(講談社現代新書)の2冊が示唆に富む本だったので、気にはなっていた。

後は、人々がリスクを管理する側の人間と自分の価値観が同じであると認識することが信頼へとつながるという仮説「主要価値類似性モデル」について書かれた、中谷内一也『安全。でも、安心できない・・・』(ちくま新書)が気になる。斎藤環推薦の新書。

年間通じては、けっこうな数の新書を読むのだが、新刊ですぐさま飛びつくことは少ない。半年、あるいは一年近いタイムラグがあっても気にならないからだ。評価が固まるのを待っていることもある。読んでみたいと思っても、「すぐに読まねばならぬ」という必要性をも感じない新書が多い。だから、時流に関係なく自分の興味とその時の気分に合った本のみ発売時に(定価で)買う。
そのため、ここ5年はブックオフで(半額セール)175円~250円(均一セール)、場合によっては105円になってから買うことが多い。

今年新刊で購入した新書は、小説『ア・ルース・ボーイ』(新潮社)の頃から読んでいる佐伯一麦の『芥川賞を取らなかった名作たち』(新潮新書)と、雑誌『流動』に記事を書いていた頃から注目していて、その著書の8割方読んでいる竹田青嗣の『人間の未来―ヘーゲル哲学と現代資本主義』(ちくま新書)の2冊のみ。もちろん、店頭で自分の気になる箇所をいくつか立ち読みしてからだが、こういう買い方をしたものにはハズレがほとんどない。

なにやら、まとまりのない記事になってしまったが、新書に関してはこれからも触れていきたい。

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