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気になる復刊文庫 2009.2 中上健次『紀州 木の国・根の国物語』(角川文庫)

中上健次『紀州 木の国・根の国物語』は角川文庫、朝日文芸文庫、小学館文庫と版元をかえながら発行されてきたが、ここのところ店頭から消えてしまっていた。今この時期に復刊する角川の姿勢を称えたい。初めて中上の本を手にする者が読み通せるか、気になるところではあるが。

中上は日本的自然が生みだす差別は、その構造において小説や文化の構造とも通底していると捉える。しかし、論理的に解き明かそうとしても跳ね返され、「構造」という視点に拘り過ぎると、「差別」そのものの本質が隠れてしまう。
中上の出自が本書に多大な影響を及ぼしていることは否めない。そうであるがゆえに、著者はルポを続けながら自問を繰り返し、揺れている。
中上なら、もっと踏み込めるところでも微妙な距離を置いている。
「神武以来敗れ続けてきた闇に沈んだ国。敗れた地霊どもが眠る隠国(こもりく)」=紀州。この特異な地を客観的に見ることも、小説家の目を通してのみ視ることも許されず、時に夢と現のあわいを彷徨い 神話的世界に足を踏み入れてゆく。

デビュー以来、異形の者と感じられた中上健次が、「人が大声で語らないこと、人が他所者(よそもの)には口を閉ざすこと」を聞き出し、「埋もれ、眠り込んだ悪霊の声、マモノの声」に耳を傾け、「差別」の根源に光をあてた貴重な作品だ。

扱われているテーマの重さ、中上の文体を考えると正直読み辛い。一気に読み通せるしろものではない。しかし、一読の価値を有している。

巻末解説は著書『社会的ひきこもり』(PHP新書)で一躍知られるところとなった精神科医・斎藤環。漫画、アニメ、ゲーム、映画、小説などを精神分析の観点から鮮やかに腑分けし、文化現象、社会問題にも言及を続けている。

小学館文庫には、本編以外に「私の中の日本人 大石誠之助」「生(き)のままの子ら」が掲載されていた。前者は大逆事件で処刑された紀州出身大石に触れつつ紀州という国の理念を説き、後者は自らの出自に触れ、「差別」と「暴力」について深い考察をめぐらせている。この2篇が復刊された角川文庫に載っていないのは、やむを得ないとはいえ、残念でならない。

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