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天上への静かなる飛翔 リヒャルト・シュトラウス 『4つの最後の歌』

リヒャルト・シュトラウスによる最後の作品。ヘッセの詩から3曲、アイヒェンドルフの詩から1曲、計4曲から成るオーケストラ伴奏付歌曲であり、<白鳥の歌>と呼ぶに相応しい傑作である。
死への諦念とともに、安息への憧憬が、厳かで、静謐で、それでいて甘美な、時に官能的ともいえる調べに充たされている。
「春」「9月」「眠りにつこうとして」「夕映えの中で」。季節の移り変わり、昼と夜、静と動の対比を織り合わせながら、人生の終焉へと至る足どりを表現している。
フォーレの『レクイエム』が、安息の光に包まれる天上の世界を描いているのに対し、『4つの最後の歌』は、死を迎えんとする者の、天上への静かなる飛翔を表現していると、私には思える。

■「春」(ヘッセ)
光に満ちあふれた春にやさしく包まれ、わたしたちは至福に震える。
■「9月」(ヘッセ)
季節は移りゆき、冷たい雨とともに夏は終わり告げる。夏を越す疲れから、休息への憧れが芽生え始める。
■「眠りにつこうとして」(ヘッセ)
昼(=人生)の疲れをひそやかに嘆く歌から始まり、やがてチェレスタの独特な音が星のきらめきを奏でる。星降る夜の中、すべてを忘れ、まどろみに沈みたくなる。子守歌を思わせるヴァイオリンの柔らかな独奏後、甘美の極みともいえる調べが拡がっていく。もうすでに生を飛び越え、夜の静謐な世界に包まれているかのごとく。

Und die Seel unbewacht. (そして魂は思いのままに)
Will in freinen Flgen schweben. (その翼をひろげて飛び)
Um im Zauberkreis der Naght. (夜の魔法に魅せられ)
Tief und tausendfach zu leben. (深く、とこしえに生きようとする)

■「夕映えの中で」(アイヒェンドルフ) 
オーケストラによる前奏が眩いばかりの夕映えを現出させ、ソプラノが「我々は手をつないで苦しさと喜びの中を歩いてきた」と、生涯を振り返り、哀切に歌い出す。さすらいを終え、静かな大地に憩うと、夜の帳が落ち始める気配の中で、二羽のひばりが舞い上がっていく。これから迎える孤独の世界で迷子にならぬよう、ひばりのさえずりが誘(いざな)ってくれるだろう。遂に、眠りにつく時(=死)が訪れる。

O weiter, stiller Friede! (おゝ、広い、静かな平和よ!)
So tief im Abendrot. (夕映えの中に深くつつまれ)
Wie sind wir wandermde - (われらはさすらいにつかれた)
Ist dies etwa der Tod? (これは死なのだろうか?)

「夕映えの中に深くつつまれ」と、ソプラノが歌うところは、この曲の中で最も美しく切ない。ソプラノによる歌が終わった後、オーケストラも、緩やかに終息へと向かい、最後はフルートが、彼方へ消えていくひばりのさえずりを奏で、曲は閉じられる。
浄化された魂が、天上へと静かに飛翔してゆく情景が浮かんでくる。

リヒャルト・シュトラウスの作品は、楽劇「ばらの騎士」およびその組曲くらいしか聴かない。映画『2001年宇宙の旅』で使われた「ツァラトゥストラはかく語りき」を始め、「英雄の生涯」「死と変容」「ドン・ファン」ほか多くの交響詩、「アルプス交響曲」もわざわざ聴こうという気になれない。「サロメ」「エレクトラ」も然り。(良さが分からないだけのことかもしれない) だが、この「4つの最後の歌」だけは、格別に愛聴している。

(  )内 日本語訳 渡辺護 ※アンダーライン2ヶ所 ドイツ語歌詞 ウムラウト略

〔 推薦盤 〕
① ★★★ ヤノヴィッツ(ソプラノ) カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

②★★ シュヴァルツコップ(ソプラノ) セル指揮 ベルリン放送交響楽団

①は、ベルリン・フィルが奏でる繊細な美音とヤノヴィッツの透明な歌声が心地よく融合し、この曲の美しさを余すところ無く伝えています。オケも歌手も技巧に傾かず、音楽が自然と心に届いてくる素晴らしさを味わえます。

※気になるのは、現在出ている盤の音質。オリジナルス・シリーズのようですが、かつて購入した際、ヤノヴィッツの声が、オケより厚めに前に出て来て、(昔の通常盤のような)オケと歌声が溶け合う美しさが、幾分損なわれてしまったように感じられたことでしょうか。それで、私は今も通常盤(F28G 22073)を聴いています。しかし、音の好みには個人差もあるので、曲の素晴らしさを知る上での妨げにはならないかと思います。

②は、シュヴァルツコップがひとつひとつの言葉をかみしめながら、情感豊かに気高く歌い上げている名盤です。その表現力の幅と深み、他の歌手では及びません。オーケストラは①のカラヤン指揮ベルリン・フィルよりも雄弁に感じられるくらいです。それでいて、高貴な演奏でもあります。

※若干気になるのは、シュヴァルツコップのブレスがやや目立つ点でしょうか。

いずれも名曲の名演奏には違いありません。どちらが私の好みかと言えば、身を委ねてしまえる心地よさ、リリシズムという点で①になりますが。

参考までに、私がこの2枚を選んだ際に聴いた、他の演奏を挙げておきます。

・デラ・カーザ(ソプラノ) ベーム指揮 ウィ-ン・フィルハーモニー
・ノーマン(ソプラノ) マズア指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
・ルチア・ポップ(ソプラノ) テンシュテット指揮 ロンドン・フィルハーモニー
・オジェー(ソプラノ) プレヴィン指揮 ウィ-ン・フィルハーモニー

キリ・テ・カナワ(ソプラノ)盤は昔処分してしまい、記憶に残っていません。ルネ・フレミング盤は未聴。

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