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CMの音楽とメッセージ 映画『八甲田山』の音楽を流すCMに違和感(2)

過日、映画『八甲田山』の音楽を流すCMに違和感という記事を書いてから、芥川也寸志『八甲田山』を少なくとも30回は聴いている。

1曲目はこの音楽のテーマがやや控えめに、かつ短めに奏でられる。2曲目の雪中行軍の音楽には、生と死の対比が鮮やかに盛り込まれている。3曲目の美しい調べには、胸をしめつけられる。厳寒の中にあってやわらかな春を思い、「死」を意識せずともすむ、穏やかな世界への希いに充ちている。そして終曲。チェロとハープの寂しげな音色が、聴く者を雪の八甲田へと引き戻す。映画を観た人ならば、さまざまな場面が浮かんでくることであろう。曲は八甲田のテーマを伴いながら徐々に盛り上がり、ティンパニー、シンバルの強奏とともに終わる。

勇壮というイメージは、私には微塵も感じられない。踏破は不可能と思われていた雪中行軍ゆえ、生きて帰れぬやもしれぬという覚悟を抱いていた者も多くいたはず。しかし、誰一人「死して礎となる」つもりなどあったとは思えない。「この悲劇を忘れてはならない」。そんな芥川のメッセージと鎮魂の想いが、この曲に込められているように思えてならない。

その後2度ほど、CMを見た。ますます腹立たしくなった。1000歩譲ってこのCMに功があるとするならば(功とも言いたくはないが)、映画『八甲田山』、新田次郎『八甲田山死の彷徨』、芥川也寸志『八甲田山』などに触れる人が、新たに出てくることぐらいだろうか。

こんなもやもやとした気分を引きずる中、いいCMに出会った。サントリーオールドのCM。画面に目を向けていなかったのだが、耳慣れた「夜がくる」(小林亜星作曲)が聞こえてきた途端、懐かしさに誘われ、思わず見入ってしまった。父親役の俳優、國村隼はドラマで見かけたことはあるが、名前は知らなかった。目で演技できるいい俳優だなと思った。若い男性のせりふは入れず、字幕の方がもっといいのにと、個人的には思えたが、ひどいCMの影にとりつかれていただけに、いいもの見たなとほっとした。

30秒、60秒の短い時間であっても、CMとて、ひとつの作品だ。「残念だな・・・。嫌な奴なら一発殴れたのにな」。娘のいない私にも、ぐっとくる言葉だった。

パロディが悪いとは思っていない。楽しいCM(広告)、お腹をよじれさせてくれる面白いものも歓迎だ。不快感がなく、メッセージを伴っていれば。そのメッセージが必ずしも、何かを深く考えさせるものでなければならないとは思っていない。ソフトバンクのCMも、最初の頃のものは数バージョン見たが、奇抜で面白かった。

ネガティブアプローチの手法を取り入れ、1990年頃「史上最低の遊園地。TOSHIMAEN」で話題を呼んだ、豊島園の広告などは今もって名作だと思う。「だまされたと思って、いちど来てみてください。きっとだまされた自分に気づくはず。楽しくない遊園地の鏡として有名な豊島園は、ことしも絶好調。つまらない乗り物をたくさん用意して、二度と来ない貴方を心からお待ちしています」。

最後に、高校の後輩が制作に関わっていたと後で知り、さらに驚いた明治安田生命のCM。もう、今さらここで持ち出すまでもないのだが、You Tubeで久しぶりに見て、やはり沁みた。
私にとって小田和正といえば、なんといってもオフコース。しかも、鈴木康博が抜ける前の。『言葉にできない』は忘れられない曲のひとつ。この曲をバックに、写真と字幕のみ。スポンサー名を含み、ナレーションはいっさい無し。「ただ精一杯生きる」「あなたに会えて、ほんとうによかった」「ありがとう」。言葉にしてしまえば、一見単純そうなメッセージだが、様々な思いが込められていて、見る人それぞれに、いろいろなことを考えさせる。

こういうCMもないと、TVのCMは、商品名連呼でただうるさいだけ、購買欲を煽るだけという、陳腐なものがますます横行するようになってしまうだろう。

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コメント

前略
「あれ」は
「八甲田山」を思い起こさせてくれました。
いい曲です。
30回以上聴いたのも分かります。

映画で
当時の秋吉久美子さんが見送るシーン、忘れられません。

今年は映画「剣岳 点の記」があります。
草々

投稿: 健太郎 | 2009年1月23日 (金曜日) 10:18

>健太郎さん

はじめまして。
「八甲田山」が、30回以上繰り返し聴いても飽きない名曲との認識を共有でき、たいへん嬉しく思います。
原作とは全く違いますが、秋吉久美子が登場する映画のシーン、あの笑顔と共に強く残っています。

「剣岳 点の記」、原作は未読ですが、映画の公式ホームページを見たら、テーマ、映像、俳優陣、すべてよさそうなので、是非観に行きたいと思います。
貴重な情報をくださり、ありがとうございました。

投稿: 風太郎 | 2009年1月23日 (金曜日) 23:49

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